その417 洗浄ヶ所
「ほぉ、君は強い光魔法を使えるようだね。内に眠る魔力もかなりのモノだ。先が楽しみだね」
「はい!」
ナタリーは光魔法しか使えない。
勿論、
…………ん? なら何で俺は光魔法を創ったり出来たんだ?
魔族である吸血鬼が扱える魔法属性は闇、風、雷である。これら三つの魔法以外の魔法を何故創れたんだ? ……また解せない点が増えたな。
「次、ルーク君」
「はい」
シギュンを横切り法王クルスの前に立つ。そして俺は法王クルスの手を取った。
「ふむ、風魔法が使えるようだね。魔力も高く、その佇まいからして剣技も得意なようだ。なるほど、ルナ王女の護衛に付けられるだけはあるな」
「ありがとうございます。土魔法はどうでしょうか?」
「土魔法?」
法王クルスが首を傾げる。
俺は笑顔を保ちながら法王クルスの手を強く握った。
「っ!?」
そして【テレパシー】を発動。
『土魔法はどうでしょうか?』
『おい、ミック! 痛いぞ!』
『先日皆の前で土魔法を使ってしまったんですよ、で、どうでしょうか?』
『ならば最初からそう言えばよいではないかっ!』
『知ってると思ったもので』
俺が微笑むと、法王クルスは咳払いをひとつ
「うむ、確かに土魔法にも強い潜在能力を感じる。多彩なようだね」
「ありがとうございます」
『では後程』
『うむ、ノックはしてくれよ』
『善処します』
その後、皆の魔力鑑定は終わり、簡単な説明の後、魔法の初歩を皆に伝えた。
その際、法王クルスは経験豊富な冒険者たちからのコメントを交えつつ、授業を展開した。冒険者の知見、法王クルスの知見、初心者の知見、そして龍族の知見やエルフやドワーフの知見を合わせてみると、これまで見えてこなかった事も見えてきた。
なるほど、流石法王である。非常に面白い授業だった。
◇◆◇ ◆◇◆
夕方。俺はリィたんにルナ王女たちの護衛を依頼し、ホーリーキャッスルへと向かった。
正確には違う。向かいたかったのだ。
俺の背中を呼び止めた人物がいたのだ。
「ルークさん」
聞き覚えのある優しい声。
振り返るとそこには聖女アリスがいた。
「これはアリス殿……いかがしましたか?」
きっとこれは完全な偶然なのだろう。
しかし、アリスに見つかってしまった。
もっと早い段階で隠れていればと心の中で反省するも、それはもう後のカーニバルなのである。
「こんなところで何をされているんですか?」
アリスの言葉は
何故ならこの先は――、
「この先は
学校敷地内ではあるが、既に聖騎士学校には慣れる頃合い。
学校内がどうなっているのかを知らないって言い訳は出来そうにないな。
ましてや俺はルナ王女の護衛。護衛対象のいる場所がどうなっているかを知らないというのもおかしな話だからな。
「あいや、えーっと……」
そして、アリスは最初から俺を怪訝な目で見ている。
というか、完全に疑っている。そうだよな、完全に不審者だもんな。
「……では、一つだけ質問させてください」
「何でしょう?」
「お風呂で最初に洗うのはどこですか?」
何を言ってるんだ、この小娘は?
「頭ですけど?」
こんな事を聞いて一体何になるんだろうか。
「っ! ちょっと!」
と、言いながら、アリスは俺の腕をとって袋小路へ連れ込んだ。
何々? いつの間にこんなに大胆になったの、この子?
心を踊らせながらキョロキョロと周囲を見渡すアリスを見ると……どうもそんな感じじゃないらしい。あれ? ……これ、いつものやつでは?
「何やってるんですか、ミケラルドさんっ」
「あれれー? 何でバレちゃったんだ?」
「自分で言った事を完全に忘れてますね?」
「ん? ……あ、確かに前に言ったね。最初に洗うのは頭って。でもそれだけで?」
「リーガル国から来てますし」
「それだけで?」
「さっき法王クルス様と話してた時、堂々としてましたし」
「それだけで?」
「最近、貴族のご令嬢やご子息の方々が、皆ルークさんに従じゅ――洗脳されてるようですし」
「今何で言い直したんです? でもそれだけで?」
「ルナ王女もルークさんには気を遣っているようでしたし」
「それだけで?」
「それだけあれば十分です! それにほら」
「アッツッ!?」
何この子? 今俺に聖加護使ったぞ?
「新手の拷問か何かですか?」
「お望みとあらばしますけど? って、そうじゃありません! 何でルナ王女の護衛なんてやってるんですかっ? それに、先生やってた時、ルークさんは席にいましたよねっ!?」
「あの時のルークは影武者です。護衛は……まぁ頼まれたからですよ。特に深い意味もありません」
「じゃあ今は?」
「リィたんが代わってくれてますよ。まぁ、護衛というより仲の良い友人同士でお茶って設定ですけど」
「ミケラルドさんは何をしているんですか、って話です」
ずいと肉薄するアリスに、俺は観念するしかなかった。
「法王クルス殿と逢い引きです」
一瞬顔を赤らめたアリスだったが、当然それは俺の冗談だし、俺の顔を見ればアリスもそれがわかるようで、すぐに俺にジト目を向けて来た。
「……じゃあ、私も行きます」
まぁ、アリスならいいか。
そう思い、俺はアリスと共にホーリーキャッスルへと向かったのだった。
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