その412 聖騎士は結果
「
ルナ王女の言葉により、皆が整列する。
流石王族。何というカリスマっぷり。
正規組が雇った護衛であろうと、彼女の指示には逆らえない。
何故なら、逆らったら雇用主である正規組にクビを切られるからだ。
「紹介します、今回の作戦を指揮する我が護衛――ルークです」
「ルーク・ダルマ・ランナーです」
こんな事するなら、もっとまともな名前にすればよかった。
「戦力という面では、護衛の方を入れれば私たちが圧倒的に有利です。相手はホブゴブリンに付き従うゴブリンですが、その戦力は五、六歳程の子供の腕力を持ったモンスターです。けれど、そんなゴブリンでも武器を持てば脅威。護衛の方の指示と援護に従い、的確に倒してください。サポートにはルナ殿下と……【サラ】さん」
「うぇ、わ、私ですかっ!?」
サッチの娘である以上に、彼女の実力はルナ王女に近い。
「お願いします」
「……わかりました!」
ランクD以上の実力を持った者が二人いれば、一人の正規組がゴブリンを相手し、それをサポートするのは訳ないだろう。
「護衛の方からは口頭での指示を。どうしても自らが攻撃しなければならなかった場合……その方の討伐数をカウントしないで頂きたい」
「「っ!?」」
「この先、どうしても討伐や訓練が多くなります。その中での初戦は非常に貴重なものです。敢えて皆さんを前に申し上げますが、初戦で最高得点を出すという事は自信が付く以上にその方の糧となります。ならばこそ、この先、各々がこの学校で生き残るため、果てはご自分の成長のため、ご協力頂ければ幸いです」
護衛は勿論、正規組からの反論はなかった。
流石に気付いているようだ。この先、生きる上で自分に何が必要かを。それが自分の実力である事を。
「ここから見えるホブゴブリンは全て私が倒します。その
「「おぉ……!」」
万能土魔法【土塊操作】を使い、周囲を囲む土壁。
それは正に闘技場と言えた。
出入口は一つ。そこを護衛の一人が守り、そこから正規組が順番に入る。
闘技場の入場口は、真っ直ぐゴブリンの巣穴に向かい、途中で途切れている。
その事についてレティシア嬢が聞く。
「ルーク、あれはどういう事ですの?」
「ホブゴブリンを討伐した後、巣穴と直接繋ぎます。今繋いでしまうとホブゴブリンも交ざってしまいますので」
「そういう事でしたのね」
「ではルナ殿下」
ルナ王女がコクリと頷く。
俺は、これと同時に駆け、【探知】を使いながらモンスターを索敵した。
外にいたゴブリンを土壁の檻に閉じ込め、発射ゲートのようにそこから一匹のゴブリンが駆け出す。護衛には実力者が多い。万が一という事もないだろう。
ホブゴブリンだけを討伐し、ゴブリンは放置。
巣穴に入ったとしてもそれが変わる事はない。
隠密系の能力により、俺はモンスターに気取られる事なく巣穴の
「さて、使う事はないと思ってた能力をここでお披露目だな」
まぁ、見られる相手もいないけどな。
固有能力【腐臭】の発動。最奥から発動されたソレは、俺の風魔法により運ばれ巣穴の出口へと向かう。
強烈な臭いから逃れるため、ゴブリンたちは出口に向かう他ない。
だが、その出口に……真の出口はないのだ。
檻に溜まったゴブリンの怒号。しかし、それに応える者はいない。
出口が一瞬開くも、出られるのは一匹のみ。向かう先は正規組が待つ簡易闘技場。
土壁の上からそれを観戦すると、意外な事がわかる。
「人間追い込まれるとこうなるのか」
相手がゴブリンであれ、中々にグロテスクな相手である。
初戦で思い切りがいいのは女子勢。そしてイマイチ踏ん切りがつかないのが男子勢である。だが、その男子勢もいざ一度倒してしまえば、勢いの乗って動きが良くなっている。性差の全てがそうとは言い難いが、こんな結果もあるんだなと感心するミケラルド君だった。
最後のゴブリンがゲートから出され、倒される。
土壁を消しながら戻ると、男子の雄叫びと女子の嬉しそうな声が聞こえてくる。
「首尾はいかがでしたか?」
俺がそう聞くと、ルナ王女が答えてくれた。
「とりあえず十人が三匹の討伐を終えたところです」
「三十匹……か。意外に多かったですね」
「この後はどうしますか?」
「勿論、次のポイントを探します。あぁ、終わった方も出来るだけここに残してください。見る事も勉強ですから」
俺がそう言うと、ルナ王女はくすりと笑ってから言った。
「ふふふ、貴方はとても恐ろしい人です」
「皆さんが生き残る術を覚えれば、後々楽になりますからね」
「あら、楽をしたいがためだと?」
「他にありますか?」
「えぇ、貴方の目のその先に――大いなる目標が見えますね」
ルナ王女が言っている意味がわからない訳ではない。
しかし、それを口にしてしまっては皆の士気を下げる事にもなりかねない。
だから俺はいつも通り道化を演じるのだ。
「はて?」
大事なのは今であり、過程。皆が目指す聖騎士は結果に過ぎないのだ。
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