その411 新たなる任務
ホーリーキャッスルから戻った俺は、人目を忍んで分裂体と合流し、皆が待つ席に戻った。
「ゴブリン討伐?」
元の俺に戻ったと知ったリィたんが俺に教えてくれたのは、次の授業内容を教えてくれた。
「まだ実戦には早いでしょう?」
「何でも、毎年このタイミングで行うそうだ」
リィたんの言葉に嘘はない。
というか彼女が俺に嘘を言うはずもないし、メリットもない。
「どこからの情報ですか?」
「マスタングがさっきな」
マスタングか。講師の一人が言ってるなら間違いないが……――、
「それって死人が出るのでは?」
「護衛の同行が許されているから問題はないそうだ。しかし、その内、任意の単独任務があるそうだ」
「っ! 単独任務となると、護衛の同行が許されないですね。でも……任意?」
「それが聖騎士になるための壁と聞いたな」
それを聞いていたルナ王女が俺を見る。
「ルーク、どう思いますか?」
「聖騎士になるための必須単位ってところでしょうか。なる必要がなければ断っても問題ない。ならば、学生たちの目標によって変わりますね。それと勿論任務内容……」
「身の丈に合わない任務であれば、それは死を意味するという事ですね」
ルナ王女の言葉から、彼女の複雑な心境が
彼女の性格であれば、任務を受けたいところだろうが、その立場故受けられない場合もある。そういった時、俺がしてやれる事は限りなく少ない。
が、彼女は俺の生徒とも言える。ならば、出来る限りサポートするのが筋だろう。
「まぁ、その時がきてみないとわかりませんよ。まずはこの後のゴブリン討伐に集中しましょう」
◇◆◇ ◆◇◆
マスタング講師の授業の時間。
リィたんの事前情報通り、やはりこの時間はゴブリン討伐の授業となった。
「任務はゴブリン討伐。討伐目標は一匹。討伐数に応じて成績を考慮するのであーる」
そこで、これまで目立ってこなかったゲラルドが挙手をする。
「うむ、そこ」
「上限は?」
「最大三匹! それ以上討伐したからといって、最高得点以上を与えるものではないのである!」
意外と良心的……でもないか。
聖騎士学校が始まって間もないというのに、もう生き死にが関わる討伐任務だ。そして、この任務の難しいところはまた別にある。
まぁ、これまでいた冒険者の世界が過酷なだけか。
「他に質問は!? ……うむ、では任務開始であーる!」
と同時、正規組以外の連中がスタートダッシュをするかのように駆け出した。
その中にはゲラルド含む幾人かの正規組の姿もあった。
呆気にとられていた正規組。隣のレティシア嬢が俺に聞く。
「え? え? どういう事なんです?」
「ゴブリンは非常に多い個体ですが、これだけの人数が動くとなればその数は限られます。ランクA冒険者であれば当然三匹の討伐を狙います。つまり、この任務は、完全にゴブリンの取り合いになるんですよ」
そう、百人の学生が三匹のゴブリンを倒すとなると、しめて三百匹のゴブリンが必要。ゴブリンの群れは一つにつき二十匹から三十匹。これを探すのも一苦労なのだ。
俺の説明を聞いていた貴族の一人が立ち上がる。
「ど、どうするんだよ! このままじゃ俺たち任務完了出来ないぞ!?」
腕を組み、ただ静観しているマスタング講師。
なるほど、アドバイスは無しか。教室内には学生と講師しか立ち入れない。
護衛は外で待機だからアドバイスも難しい。
ざわつく教室内。さて、そろそろ自分が特別な人間じゃないと自覚出来た正規組。彼等も俺の生徒たち。ならば、これも助け船が必要か。
そう思い、俺はルナ王女に耳打ちした。
「ルナ殿下、ちょっと場の指揮をお願いします」
「……何か考えがあるのですね?」
頷いた俺に、ルナ王女も頷く。
直後、ルナ王女が机を叩き立ち上がる。
「
ルナ王女の言葉に、皆ピタリと止まる。
「こ、これでいいのでしょう?」
不安そうに俺に聞くルナ王女。
普段は勝気だが、こういう時はやはり子供らしく可愛いと思ってしまう。
「勿論です」
「わ、私に考えがあります!」
◇◆◇ ◆◇◆
「嘘でしょ……?」
どこかの姫の言葉だ。
「あれって……ホブゴブリンだよな?」
どこぞのおぼっちゃんの言葉である。
風下からのゴブリン集落の偵察。
ゴブリンはどこにでも湧くゴキブリ体質な存在だ。
法王国のモンスターレベルが高いとはいえ、ゴブリンがいない国はない。
だからこそ、多くの冒険者たちはゴブリン集落の情報を集め、そこに向かっているはずだ。
しかし、そこが狙えないとなると別の場所を探すしかない。
ゴブリンだけで群れを成しているのであれば対処は楽。
しかし、ゴブリン
たとえばそう、ホブゴブリンの群れにも、少なからずゴブリンはいるのだ。
これが、今回の作戦の肝。上位モンスター率いる群れにいるゴブリンの討伐である。
ゴブリン討伐は一匹であればランクG、十匹であればランクFとなる。
先日の薬草採取任務の後は、それ以上の事をさせる。聖騎士学校の指導方法は何となくわかってきたが、これでは脱落者が多くなって
ならば、俺が聖騎士になる者たちを増やしてやろう。
そのためにはまず、正規組の育成が必要不可欠だろう。
レティシアが心配そうに俺を見る。
「ル、ルーク……本当にやるんですの?」
だから俺は答えてやるのだ。
「安心してください、レティシア。私は聖女をゴリラに、勇者をバケモノにした男ですよ? 貴族を精鋭にする事くらい……朝飯前ですよ」
聖騎士学校か。
ちょっと楽しくなってきたじゃないか。
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