その410 法王への報告

 戦略ストラテジーゲームの授業は上手くいったようで、学生たちは皆楽しみながらやってくれた。中には腕が上がらなくなるまで頑張った学生もいたようで、とてもよかった。

 冒険者組に関しては皆良い反応速度だったが、その中でも群を抜いていたのは、先程の土塊人形斬り倒し大会の上位者であるリィたん、エメリー、レミリア、そしてゲラルドだった。

 リィたんに関して言えば弾丸のような速度で土塊人形を動かしたところで全て防がれてしまうので、参考にはならないが、ある意味それは皆にとってとてもいい勉強になっただろう。

 すまし顔のゲラルドでさえも、リィたんを凝視する程だったからな。

 新人の内にZ区分ゼットくぶんの強さに触れられるのは、悪い事じゃない。勿論、用法用量を守って正しく見せなければならないだろうけどな。

 授業後、俺は元首という特異性故、ライゼン学校長に出欠簿兼成績表を渡すだけで講師の仕事が終わる。

 学校長室で、俺がそれを渡そうとすると、ライゼン学校長が言った。


「どうですかな、当校の学生たちは。もっとも、冒険者出身の貴方ならば、顔見知りも多いでしょうが」

「またまた、遠目でご覧になっていたでしょう? 楽しくやってましたよ」

「……ほっほっほ、お気づきでしたか」


 なるほど、気付かないと思って見ていたという事か。


「あんなに遠くからご覧になられてもつまらないでしょう。次の授業は是非いらっしゃってください」

「ではそうさせて頂きましょう」

「あぁこれ、成績表です」


 まぁ、ライゼン学校長以外にも、俺の授業を見ていた奴は何人かいたようだけどな。

 学校長室から出た俺は、そのままホーリーキャッスルへと向かった。

 本来であれば、ルークに戻り、ルナ王女とレティシア嬢の護衛をしなければならないのだが、四六時中彼女たちを守る事は不可能である。

 お風呂にも一緒に入れないし、トイレにも一緒に入れない。着替えも一緒に出来ないし、お風呂にも一緒に入れないのだ。

 今回の様な所用も、一緒に出来ない行動の一つである。

 だからこそ、そういう時は俺の仲間たちが彼女を護衛している。

 今は交友を深めるという名目で、ナタリーやリィたん含む俺の身内が、二人とお茶をしている事だろう。幸い元々ナタリーとレティシアは仲がいいので一緒にいても不自然じゃないからな。勿論、分裂体ルークもそこにいる。そう、終始笑顔で。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「――魔族だと?」


 意外に冷静な法王クルス君。

 現在、俺がいる場所は法王クルスの自室である。

 たとえ他国の王と言えど、本来であれば入る事など出来ない場所。

 しかし、俺はここに来るしかないのだ。何故なら、ここだけが俺と法王クルスが密会を出来る場所なのだから。

 当然、ここへは不法侵入である。まぁ法王クルスの許可こそあるものの、門番や官吏を通さずここへやって来ているのは間違いない。

 壁抜け、壁走り、擬態を使い、やっとこさ会ったのが七十オーバーのおっさんというか爺さんというか……俺の青春も灰色確定かもしれない。


「……他には?」

「ん~と、ゲオルグ王の息子ゲラルドが、父親より高いポテンシャルを有している事。教室から広間に向かった時、いくつかの視線がべったり張り付いていた事。その内の一つがライゼン学校長だった事。えーと、他には――」

「――待て待て待て。多い。多いぞ、ミック?」

「取るに足らない事だ……と思いたいところですが油断は出来ないでしょうね」

「……まず、ゲラルドの件だが、現在リプトゥア国はリーガル国の属国だ。当然、リプトゥア家は没落している。だが、ゲラルドが聖騎士となればその名を残せるやもしれない。彼の狙いはそこにあるのではないか?」

「それもあると思いますけど、どうもそれだけじゃないような気がします」

「というと?」

「わかりません」

「……勘か?」

「勘です」


 俺がそう言うと、法王クルスは深く溜め息を吐いてから少し俯いた。

 頭の中で整理を付けたのだろう、彼は次の話題へと移った。


「……いくつか視線があったというのは?」

「多くは私が抱える闇ギルド員です。リィたん含む新入生の脅威度を見に来たんでしょう。ま、ただの偵察ですよ。それ以外は私の知らない視線でした」

「ライゼン以外は、だろう?」

「ですね。ライゼン学校長の狙いは現状不明ですが、警戒しておくべきでしょうね」

「うむ」


 その後、法王クルスはソファに身体をどっと預け。

 しばらく考えたのち、俺に聞いた。


「それで、アリスはどうだ?」

「う~ん……何というか絶好調でしたよ?」

「勇者エメリーが学友だからだろう」

「それもあると思いますけど、どうもそれだけじゃないような気がします」

「……どこかで聞いた事のある台詞だな」

「勘です」

「私が質問したかのように答えるな」

「あの子の場合、成長するならばこの機をおいて他にないですからね」

「確かに、同年代の若人と共に歩む事はアリスのこれまでになかった事だ。エメリーの成長含め、しっかりと見守っていかないとな」


 大半が俺の役目なのでは?

 俺はそう思い、首を傾げながら虚空を見上げるのだった。

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