その403 入学、法王立聖騎士学校!
「か、格差社会……!」
俺がそう零してしまうのも無理はないだろう。
聖騎士学校は全寮制である。当然、冒険者ギルドから招致された冒険者にも寮がある。
右を見れば正規ルートで入学した金持ち、貴族たちが住む豪華な城と見紛う程のドデカい寮。そして左を見れば冒険者ギルドの宿に長屋でも継ぎ足したかのような残念な寮。
ナタリーがこちらをチラチラ見ながらボソボソ何か言ってる。
こういう時、俺はナタリーの
『どうしたんすか』
『格差社会!』
どうやらナタリーも俺と一字一句違わぬ感想のようだ。
聖騎士学校は二年制。過去、三年制かとも思っていたが、どうやらこの世界では二年単位で学ぶ事が多いようだ。学費は年間白金貨五十枚。日本円換算で【ごせんまんえん】である。二年通えば【いちおくえん】になる訳だ。
当然、それは貴族たち金持ち相手の学費であり、冒険者招致に国が金を
まぁ、正面にある学校自体は間をとった感じの学び舎である。
ナタリーが【テレパシー】内会話でブツブツ愚痴を零し始めると同時、俺は耳の端から声を拾った。
「おい、オルグ様だ」
「本当だ! あっちにいるのはシギュン様か!」
「あぁ、これだけで入学した甲斐があるってもんだ」
という内容の話は至るところから聞こえた。
なるほどね、これまで会う事はなかったがあれが神聖騎士のシギュンか。
騎士だというのに、妖艶という言葉が似つかわしい相手だ。
ありゃ色んな異性……いや同性すらも手玉にとっているんだろう。
――聖騎士団長オルグの挨拶。
「このよき日に、君たちと出会えた事は神からの褒美であり、法王陛下のお導きの賜である。貴族だけではなく、今年は冒険者の方々も多く入学している。互いのよきところを学び合い、魔王襲来に備えた精進を忘れず、切磋琢磨して欲しい。そのためならば、私はこの身を捧げる覚悟である。これからの君たちの成長を応援すると共に、その指針として、私自身も鍛練を欠かさない。だから君たちには、私たち先人を追い付き追い越すつもりで、勉学、鍛練共に頑張ってもらいたい」
――神聖騎士シギュンの激励。
「全てはオルグ様が仰って頂いた通りです。ですが、一つだけ付け加えるのであれば、あなたたちは決して一人ではないという事です。前にはオルグ様が、隣には
オルグを立てているというのは本当のようだが、その実、「オルグは隣にいねーよ」って言ってるな。「お前等の横には私がいるんやで」と、遠回しな自分強調……ともとれなくはない……が、ミケラルド君個人の感想ですし? 断定は出来ないけどもよ?
「あぁシギュン様……!」
「この身は全てシギュン様のために……!」
と、若い子たちにはそう伝わってしまうのだよね。
まぁ、実際むっさくてごついおっさんよりかは美女だよね。世界の真理だよね。
その後、俺が欠席した講師紹介や、設備説明などを終え、事務方の寮への誘導が始まった。
「ねぇルークー」
「どうなさいました、レティシアお嬢様?」
「ここって男子寮と女子寮が分かれてるみたい。どうなさるんですか?」
「付き人や護衛はその限りではないのでご安心ください。私は、ブライアン王の計らいにより、ルナ王女とレティシアお嬢様の間の部屋を頂いております」
「まぁっ!」
やたら嬉しそうである。
「それでは壁をトンと叩けばルークが呼べるのですねっ?」
声も弾んでいらっしゃる。
「先程お渡しした
「あ、そうでした」
隣の部屋とはいえ相手は王族と大貴族。
【テレフォン】を利用した方が呼びやすいだろう。
冒険者寮に向かうナタリーやリィたんたちに目を向け、伏せる事で別れの挨拶をした後、俺たちは寮へと向かった。
異性の護衛、付き人は異性寮内では腕章が必要になるそうだ。
現代なら怒られそうではあるが、生き死にが多く関わるこの世界なら仕方のない事なのだろう。
聖騎士学校に通うのに、聖騎士崩れを雇う者も多い。
ちらほらと腕の立ちそうな護衛も見受けられる。
ふむ、今すれ違ったのは美しく魔力の高い魔法使いだった。
長い赤髪とウィザードハット。そして豊満なバス――ト?
ふむ? どこかで見た事がある風貌だ。
確か、あれは冒険者ギルドの審査官の仕事を請け負った時の事だ。
審査したランクSパーティ【
「あら? ふふ、可愛らしい子♪」
そう、確か彼女の名は【ホルン】。
【青雷】は確かアーダインが不適正判断をして、入学がならなかったと聞く。
まぁ、進言した俺のせいでもあるが、まさかここで出会う事になるとは……。
「何をしてる、ホルン。行くぞ」
「はぁ~い」
ホルンを呼んだのは男の声だった。
直後、俺は驚きに囚われた。
浅黒い肌と鋭い眼光。通った
その背を視線で追っていた俺の背後から、ルナ王女が言った。
「おそらく彼が【ゲラルド・カエサル・リプトゥア】……先のリプトゥア国のゲオルグ王の息子――ですね」
なるほど、これは青き春とは言い難い聖騎士学校生活になりそうだ。
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