その404 黄金期
「う~~ん……やっぱり格差社会」
ルナ王女とレティシア嬢の部屋の間にある寮の自室に着いて零す言葉も、先程と同様のものだった。付き人とはいえ、その内装は良質の宿以上と言えた。
まぁ、お上の品や格が問われるから仕方のないのだろうが、ナタリーたちに申し訳ない気がする。
さて、荷物を置いたら二十分でオリエンテーション……か。
こういう時、護衛兼学生は大変である。ルナ王女とレティシア嬢の準備完了前に、自分の準備を終えてなければならない。つまり、何事も一番に終わらせなければいけないのだ。
「レティシアお嬢様、準備はよろしいですか?」
扉の外からまず
格としてはレティシアより当然ルナ王女が上。ならば、ルナ王女の迎えはレティシアと共に行くべきなのだ。
『もうちょっとでーす。よし』
荷物を置くだけなのに何故こうも時間が掛かるのかは
「お待たせしましたっ」
「……ふむ、リボンが曲がってますね」
「ふふ、では直してくださる?」
この笑み……なるほど、わざとか。
今更俺を試すのか、この子は? それとも何か別の狙いが?
まぁいい。これも仕事だよな。
「では参りましょう」
「はい!」
歩けば紛う事なきお嬢様。
目の端に映る他の学生たちも、レティシアの存在感には圧倒されているようだ。
公爵家のご令嬢……か。思えばレティシアが誘拐されたところを助けたのが出会いのキッカケだったか。まさかレティシアと机を並べる事になるとは、世の中わからないもんだ。
「殿下、ルークです」
「レティシアにございます」
『えぇ、今行きます』
ルナ王女はやっぱりレティシアより先に準備が出来てたようだな。
だが、下の者を待つのも王族の仕事だ。
「お待たせしま――」
「――リボンが曲がってますね」
食い気味だった。
まさかの天丼とは思わなかったぜ。
「うぇ? あ、本当ですね。殿方を前にこれは失礼しました」
がしかし、ルナ王女は天然ボケだった。自分で直してるしな。
まぁ彼女は多少じゃじゃ馬が過ぎる部分もあるし、こういうところもあるのだろう。
反対に、レティシアはこれからも画策しそうな感じが否めない。
普段はこういう性格なのか。なるほど、おじさん、そういうの嫌いじゃありませんよ。
「ルーク、何か気になる事はありましたか?」
教室に向かう途中、ルナ王女が俺に言った。
「気になる魔力がいくつか。ですが、現状は何とも」
「わかりました。問題があれば報告を。場合によっては事後報告でも構いません」
「ありがとうございます」
とは言っても、ブライアン王とランドルフの大事な愛娘だ。警戒は怠れないだろう。
「御機嫌よう」
「御機嫌よう」
「御機嫌よう」
「御機嫌よう」
女子寮の代名詞って感じの挨拶がいたるところから聞こえ、当然、ルナ王女やレティシアにもそれらが飛んでくる。これもコネクション作りの一環とはいえ、これからの学生生活に不安が残る今日この頃。
◇◆◇ ◆◇◆
「学校長の【ライゼン】である」
豊かな髭、小さい体躯ながら漂う風格。
聖騎士学校は神聖騎士オルグの管轄だ。しかし、その全てを見る事は出来ない。彼も仕事があるのだから。
この
引退と共にその称号を返上し、聖騎士学校の校長となった男である。
実力こそ衰えているものの、視線、存在感、足運びは一流の聖騎士である。
「今年は冒険者ギルドから五十名、通常入学が六十名と例年の倍以上の入学者がおる。我が屈強なる講師陣からは【黄金期】などという話も出ていると聞く。是非とも精進して欲しい」
そりゃ
この期を黄金期と呼ばずして、いつ呼ぶんだって話だよな。
とはいえ、優秀な人材を鍛え上げるという点では、聖騎士学校は他の追随を許さない。
何たって、ごく少数とはいえたった二年間でランクS相当の実力者を輩出するのだ。
当然、このオリエンテーションも一筋縄じゃいかないのだろうな。
「とまぁ、普通の
ざわつく教室。
だよね、そうだよね。
ただの貴族が少し剣術学んだところで騎士にすらなれない。
ならばこその徹底的な鍛練。
「今年からは冒険者ギルドが提携に入ったおかげで多くの鍛練が出来そうだのう……」
ライゼンの爺さんが持ってるのは……ありゃ冒険者ギルドの依頼票か?
「泥水を
と、いくつかの候補から一枚の紙を選んだライゼン。
そして皆の前に掲げ、初日に相応しい任務を俺たちに課したのだ。
「薬草採取じゃ」
貴族の皆さん、地獄の入口へようこそ♪
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