その394 真・世界協定2
「ここは空けておくべきだろうな」
俺、ローディ族長、リーガル国王ブライアンときて、その隣を見るのはドワーフ国家ガンドフの王【ウェイド・ガンドフ】だった。
「お好きな席を」
と、俺が言うと、
「では」
ウェイド王は法王クルスが座る席だとして、ブライアン王の隣の席を空け一つ奥の席――左から二番目の席に腰掛けた。
本来であれば、一番左にリプトゥア国の代表が腰を落とすのだろうが、今日は欠席である。
【真・世界協定】の
法王クルスの隣に座るのは妥当だろう。
「法王国より、クルス・ライズ・バーリントン法王のおなぁ~りぃー!」
直後、これまでただ感嘆の声しかあがらなかった場内に、歓声に近い声が聞こえた。やっぱり人気あるんだな、法王クルスって。
是非、俺とは違うクルス君のスピンオフストーリーを見てみたいものだ。
クルスのヤツ、三歳児の俺を見ても余り驚かないな。
がしかし、魔族という点もあってか聖騎士たちの視線が強い。ギュスターブ辺境伯領で起こった魔力解放事件だけは勘弁して頂きたいものだ。まぁ、行動に移ってくれれば俺としては動きやすくなるだけだがな。
聖騎士団長であり神聖騎士のオルグは、俺やミナジリ共和国に警戒するのは当然の仕事だし、仕方のない事だ。
クリス王女は……なるほど、俺を見てくれない。きっと過去の黒歴史を思い出してしまうのだろう。どこかのタイミングで払拭させてあげたいところだ。
俺たちの前に立った法王クルスが、ちらりと俺を見る。
「ミック」
「何でしょう」
「助けてくれ、笑いそうだ」
笑い死ねばいいんだ、こんな法王なんて。
公式な場なだけあって真顔だったが、ずっと我慢してたのか。
やっぱり、三歳児姿で彼等を招くのはどうだったのだろう、ナタリーよ。
当然、その会話を聞いていた、ブライアン王、ローディ族長、ウェイド王は……小刻みに震えているな。きっと笑いを堪えるのに必死なのだろう。
まったく何て王たちだ。
まともなのは俺だけじゃないか。
◇◆◇ ◆◇◆
「いや、どう考えてもミックのアレは不意打ちだ! アレはお前が仕掛けた罠だぞ。一番まともじゃないのはお前だ!」
五つの国の代表たちのお披露目が終わった後、俺たちは綿密な打ち合わせのために会議室へと移った。互いに差がないように円卓にしたのは流石ロレッソだな。
がしかし、そんな円卓から身を乗り出しながら俺に文句を言うのは世界のリーダー法王クルス様殿閣下野郎だった。
俺が深い溜め息を吐くと、リーガル国のブライアン王が手をあげる。
「確かに、あれは国家的不意打ちだった」
「同感だな」
ガンドフのウェイド王も乗ってきた。
すると、必然的にシェルフの族長ローディに視線が集まる。
「少々驚きましたが、これまでミケラルド殿が行ってきた事に比べれば、些末な事かと」
「ふむ……確かにそれは言えてるかもしれぬな」
法王クルスが同意を見せると、ブライアン王とウェイド王は見合って肩を
今回の円卓会議――各国代表の背には付き人のような供がいる。
ブライアン王であればサマリア公爵のランドルフだし、ローディ族長には次代の族長であろう息子のディーン、法王クルスに至っては聖騎士団長のオルグだ。
因みに、ガンドフのウェイド王の後ろには、背の低いすまし顔のドワーフ美女がいらっしゃる。身長こそナタリーくらいだが、ウェイド王の側近なのだ。実績がなくば、あの場に立てないだろう。
そんな事を考えていると、頃合いと見たのか法王クルスが口を開いた。
「さて、ブライアン殿。発起人として、これまでの世界協定について思うところがあったのだろう? 改めてその心中を我らに聞かせてもらえないか?」
すると、ブライアン王はすっと立ち上がり、皆に言った。
「まず第一に世界協定にはシェルフやガンドフが含まれていなかった点。同意を求める訳ではないが、参加出来ない国の長として考えた場合、私の心にはどうしてもしこりが残る。そこで、シェルフのローディ族長と相談し、発起に至った」
ウェイド王が頷き、ブライアン王を見る。
「第一、と言ったな?」
「うむ、第二に、ミナジリ共和国の立国だ」
俺たちの事ですね。
「ミナジリ共和国の誕生により、我々は見たはずだ。真の共生を。エルフ、ドワーフ、人間が暮らし、手を取り合う。そんな光景は今まで見た事がなかった。大きな門戸を開いているガンドフでさえ、他種族が永住権を獲得するには困難と聞く。果てはあのリプトゥア国との戦争で、魔族すらも住んでいる事がわかった。この世界的事件とも呼べるあの出来事を前に、ミケラルド殿は私に光を見せてくれた」
言う事が大げさなのは、ここが王たちの場だからだろう。
「人間ではない、エルフではない、ドワーフではない、魔族の吸血鬼が示した可能性を、私は否定する事は出来ない。時代は変わったのだ。ならば、過去作られた【世界協定】も変わらねばならない。【真・世界協定】は、先の時代を生き、立ち向かう者たちにとってあるべき機構だと、私は考えている」
何とも、相変わらず非凡な考え方です事。流石はリーガル国の賢王だ。
そう言い終えると、法王クルスがじっとブライアン王を見た。
「……もう一つくらいありそうだな」
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