その395 真・世界協定3

「え?」


 俺が素っ頓狂な声を出していると、ブライアン王はニヤリと笑った。


「知れた事、その方が世界が楽しいと思っただけよ」


 ブライアン王が拳を握り言い切った。

 すると、法王クルスが笑いながら言ったのだ。


「はははは、国を代表する王の言葉とは思えぬが、確かにそれには同意しよう」

「楽しい、か。民を想う気持ちはあれば、我々の仕事は国家の発展。その仕事に対し精力的になれるのであれば、重要な要素だろうな」


 ガンドフのウェイド王も同じ考えか。

 仕事に楽しさを見出すのは賛否両論あるかもしれんが、ただの義務ではなく、精一杯出来るのであれば、それは一つの正解なのだろう。まぁ、国民には大きな声では言えないけどな。

 ブライアン王が座り、次の話に移るべく、法王クルスがシェルフのローディ族長を見た。


「真・世界協定にはどのような仕組みが必要か。ローディ殿はどう思われる?」


 ローディが立ち上がり、一つ間を空けてから話し始めた。


「元々世界協定は誕生した魔王や魔族に対し、対策、対応を講じる世界規模の機構。当然、運転資金、運用資金が必要です。だからこそ、各国は勇者が誕生した国に対し、支援金を支払ってきたかと思います」


 この中で、元世界協定に参加していたのはリーガル国と法王国のみ。

 両王が頷き理解を示す。


「それでは過去と同じく、勇者に責を、勇者出身国に富を与える結果となるやもしれません。ならば、支援金ではなく積立金と寄付により、有事の際に使う金銭を用意しておく、というのが私の考えです」


 画期的……とまでは言わないが、堅実だな。

 ウェイド王が口を尖らせローディに言う。


「ほぉ、それは面白い。がしかし、その積立金はどこに集める? 一国に集めるのであればそれはやはり先の問題と同義。皆を信じてはいるが、私腹を肥やすやからがいないとも限らぬぞ?」


 ウェイド王の言葉にローディが頷く。


「当然、それは危惧すべき事です。それに信用などという言葉だけで語れる程、世の中は甘くありません。ならば、各国にあり、信用で運営している場所に管理を任せればいい」

「っ! そうか、冒険者ギルドか」


 ウェイド王の気付きと共に、法王クルスが唸る。


「ううむ、確かに歴代勇者が身を寄せるのは冒険者ギルド。彼等ならば金の動かし方や経費計上にも慣れているし、既存のシステムが利用出来る。更には、各国からの集金も円滑に出来るだろう。アーダインも来ているし、都合もいいかもしれないな」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 という事で呼ばれたアーダイン君。


「可能だ。まぁ、金の管理をする以上、手数料は頂く事になるだろうが、冒険者ギルドとしても悪い話じゃない」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 という訳でご退室頂いたアーダイン君。


「ミケラルド殿、先程から発言がないが……何かあるかね?」


 法王クルスの言葉により、俺は立ち上がる。そう、椅子の上に。

 しかし、同時に法王クルスが噴き出した。


「ぷっ」

「そこ、笑わないように!」

「ははははは! いやすまん。まさか椅子の上に立つとは……ははは」

「床に立ったら皆さんのと話す事になるんですよ」

生憎あいにく、我らの足には口が付いていないからな」


 まったく、ああ言えばこう言う法王だ事。


「気を取り直して……まず、【真・世界協定】をという機構を設けるにあたって、その根本である部分の見直しも必要かと」


 俺が言うと、ブライアン王の片眉が上がる。


「と言うと?」

「世界協定は原則、世界的危機に対する……そうですね、大部分は魔王復活に備えたものです。だからこそ勇者に対する支援が必要となる。しかし、世界的脅威はそれだけではないはずです。【真・世界協定】に組み入れたい要素として、まず勇者支援が一つ。それ以外には大規模災害に対する復旧支援と、他の外的要因から起こる被害対応でしょうか」


 この提案に対し、ローディ族長が顎を揉む。


「ふむ、大規模災害というのは竜巻や台風、火山の活性化や大雨による被害という認識でいいのでしょうか?」

「えぇ、他にも地震や作物の不作に対する支援ですね」


 もっとも、こちらに寄生転生してから地震なんて滅多にないけどな。


「確かにこれまでは。個人でそれを成してきました。しかし、それだけでは決して抗えぬ壁もあります。中には職を失った者もいるはず。それを救済する機構として、【真・世界協定】を利用したいと……」


 ローディ族長が法王クルスを見る。

 皆、難しい顔をしているが、悪い方向では考えていないようだ。

 すると、ウェイド王が俺に言った。


「ミケラルド殿。先の提案、最後の『外的要因から起こる被害対応』というのは?」

「何も魔王ばかりが脅威ではありません。Z区分ゼットくぶんに該当する強者は世界各地にいます。噂によると、Z区分ゼットくぶんは龍族だけではないみたいですし」

「うむ、五色の龍と霊龍。それ以外には魔王と覚醒した勇者。また、特殊個体として【フェンリル、、、、、】や【ヘルワーム、、、、、】などの脅威も報告されている。国家規模の被害を受ける事がないとは言い切れないな」


 ウェイド王も、やはり法王クルスを見た。

 別に法王クルスの機嫌をうかがっている訳ではない。

 あの目は「私は賛成だが、法王はどうだ?」と聞いているのだ。

 票をとらなくとも、賛成者の人数がわかるだけで進行役はやりやすいからな。

 ブライアン王からの視線を受け取ったところで、法王クルスがコホンと咳払いをした。


「何とも、面白い試みとなるやもしれんな」

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