その368 仲介所

「跳ぶのですか?」

「えぇ、小さな跳躍で結構です」

「はい」

「せーのっ! はい! タヒムさんと一緒にジャンプワープが成功しました! さぁ、やって来ました法王国の北! ここらはまだ人通りがありますね? 目的地は一体?」

「こちらです」


 いよいよ闇ギルドの入り口である仲介所とやらに着く。

 気を引き締めて行かなければ。

 そして、俺はタヒムに連れられ、古びた食事処に着いた。

 中に入ると、そこには人相の悪い男や女が十人程いた。

 彼等も俺と同じように連れて来られた人間だろうか?

 確かに悪意も見えるが、実力はそうでもない。

 いいところBランク。平均がC~Dといったところだ。

 タヒムが奥に進み、カウンターの店主らしき男に言った。


「水を、こちらにはミルクを」


 冗談でしょう?

 おそらく合言葉なのだろう。

 合言葉なのだろうけど、そんなんじゃ厨二病はくすぐれないぞ。

 店主の男は、それを聞き、奥の扉へ首を傾けながら言った。


「使え」


 是非ともミルクを飲みたかったが、注文だけして提供はされないようだ。

 おそらく言い方を間違えれば雑に提供され、店内の奴らに絡まれて早々に追い出されるシステムなのだろう。

 タヒムの後を追い、案の定というかなんというか……やはり地下へと潜って行った。

 ……ん? んんん? この反応はどこかで感じた事のある魔力である。

 タヒムが扉を開けると同時、俺は目を丸くした。


「これは珍しい、拳鬼、、殿が審査官でしたか」


 くそ、審査がフリーパスだった……!


「タヒム……お前が珍しい…………ん?」


 まぁ、早い段階で【呪縛】を使っておきたかった相手だ。


「右足は義足になったのか、闇ギルドの技術も馬鹿に出来ないな」


 無言でひざまずく拳鬼を見て、タヒムが気付く。


「まさか拳鬼殿まで……っ、これは失礼を」


 そう言うと、タヒムは拳鬼の隣に行き、俺に跪いた。


「拳鬼、闇ギルドに入りたい。どうすればいい?」

「本来であれば審査が必要ですが、御身おんみであれば話は別です。ただ一つ問題がございます」

「何だ?」

「御身の今回の目的、それは潜入にあるかと推察致します」

「そうだ」

「御身が私を倒した、と上に報告する事は簡単です。しかし、そうなってしまえば少なからず注目を集めてしまいます。着実に功績をあげ、その間闇ギルド内部の構造を調べるのが得策かと」


 確かに、今入って拳鬼やサブロウや拳神を倒したとして、闇ギルド本部に警戒を与えるだけ。また、拳鬼や拳神に【チェンジ】で偽装するにも交友関係を知らない内は危険……か。

 相手は龍族を抱える程の巨大組織闇ギルド。

 慎重に慎重を重ねたとしてもマイナスになる事はないだろう。


「……わかった、そうする事にしよう」

「拳鬼殿、序列四百から始めてはいかがでしょう?」


 と、タヒムが言った。


「うむ、確かにそれが一番いいかもしれん」

「ん? 序列?」

「冒険者ギルドのようなランク付けです。闇ギルドは序列形式。末端構成員は序列千。資金調達の八百から九百。見張りの六百から七百。偵察の五百。そして特殊任務の四百」

「へぇ、中々面白いな。序列四百って事は四百番台って事だろう?」

「その通りです。隣のタヒムも序列四百台です。四百台から上は、ある程度自由を許されているので、御身も過ごしやすいかと」

「わかった。ちなみに拳鬼は?」

「私は二百。以前はハンドレッドと呼ばれる序列百でしたが、足を失った事により、降格となりました」

「確かに、お前の実力で審査官とは思えなかった。そういった経緯があったのか」


 まぁ、憐れみは感じないけどな。


「序列三百と二百の役割は?」

「三百が要人の警護、二百はこのように中間管理職に近い仕事が主です」

「ハンドレッドってのは?」

「要人の襲撃や暗殺などの実行部隊と言えばわかりやすいでしょうか」

「では、それ以上は?」

「ございます。その名も【ときの番人】」


 名付けるの好きだな、闇ギルド。


「そう、真の序列は【十二人、、、】。ミナジリ共和国を襲った拳神ナガレ殿、サブロウ殿がここに名を連ねています」

「サブロウが? じゃあパーシバルはどうなっている?」

「奴はハンドレッドの新参者。いくら実力があろうともおいそれと【刻の番人】に上がれる訳でもないのです」


 十二人、なるほど。だから【刻の番人】か。


「そういえば、ハンドレッドと刻の番人の間はないのか? 十三から九十九までみたいなのは」

「噂ではありますが、いるのではないかというのがハンドレッドたちの見解です」

「なるほど、拳鬼たちも知らないって事か。そっちは拳神に聞いておくか」

「何と、拳神殿までっ?」

「どこにいるかわかるか?」


 俺がそう聞くも、タヒムと拳鬼は見合って首を振った。


「申し訳ございません、刻の番人の動きを知る者は誰もいないのです」


 その後、俺は仕事の受注方法や闇ギルドのルール等を聞き、タヒムと共にそこを離れた。

 闇ギルド――序列、ハンドレッド、刻の番人ねぇ。

 とりあえず加入はしたが、実際入ってみないとわからない事もあるだろう。

 着実にこちらの駒を増やし、内部から崩壊を狙いたいところだが、大きく動くにも準備が必要だ。

 それが整うまでは、表の仕事を頑張らなくては。

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