その367 勧誘
最初は他愛もない話だった。
これまで経験した事、倒したモンスター、出くわした出来事。
当然、俺の記憶がミケラルドのものである。多少嘘を交えながらタヒムに色んな話をした。勿論、タヒムも青雷で
そろそろかと思い、俺はタヒムに
「タヒムさんは冒険者が辛いと思った事はありませんか?」
そう、切り出したのは俺だった。
これに乗ってくればタヒムは間違いなく
「……というと?」
「私としては……そうですね、冒険者ランクがCもあれば、生きるに事欠かないと思っています。確かにランクが上がる事による報酬や達成感は他では
「……確かにそうですな。まぁしかし、私は魔法使いですからな。これ以上の高望みも分不相応というものです」
「えー、タヒムさん優秀じゃないですか」
「はははは。しかしデューク殿、貴方には可能性がある。もし先のような刺激や爽快感……得られる仕事があると言ったら、貴方はいかがなさいますかな?」
これは……引っかかったと言うべきか。
「そんな仕事なんてあるんですか? まぁ興味がないと言えば嘘になりますね」
「そうでしょうそうでしょう。デューク殿がよろしければ一つお話があるのですが、いかがでしょう?」
むさいおっさんを釣ってやったぜ。
まぁ、
これまで血を吸った
だが、ランクSのタヒムは明らかに別格。おそらく冒険者のスカウトも兼ねているのだろう。だからこそ、闇ギルドの中枢に潜るチャンス。
「少し場所を変えましょう」
深夜、おっさんと夜道を歩く恐怖は、かつてのお化け屋敷以上である。
だが、これも闇撲滅のため……と考えれば仕方ないのだろう。
人通りが少なくなると共に、タヒムの腕に爪の先っちょをちゅぴっと入れ、ぺろりと血を舐める。
「何を……っ!?」
流石に反応が早かったな。
だが、【呪縛】で縛ってしまえばそれまでだ。
『目的地に向かいながら【テレパシー】で話せ』
『……はい』
『お前は闇ギルドに所属しているな?』
『はい』
『俺をスカウトしようとした、間違いないか?』
『その通りです』
『これから向かう先は?』
『闇ギルドの仲介所です』
なるほど、予想通りだ。
がしかし、闇ギルドも詰めが甘いと言わざるを得ない。
人を信じる……という訳ではないが、会ったその日に俺を闇ギルドの重要拠点に連れて行くなんて現代ならば考えられない。
だが、それもこの世界、この時代故なのだろう。
それに、闇ギルドも、それを警戒していない訳ではないのだろう。
『そこで何をさせる?』
『入所の審査があります』
やはり。
おそらく、実力と人となりを審査し、重要度の低い
『どうやったら審査に合格出来る?』
『審査官が認めれば……としか』
『……いいだろう』
◇◆◇ ◆◇◆
「『突撃! 隣の闇ギルド!』。はい、今日は闇ギルドの構成員であるタヒムさんと共に、法王国のはずれまで来ちゃいました! タヒムさん、宜しくお願いしまーす」
「はい」
「おやおやおや~? タヒムさん、何やら建物が見えてきましたよ~? あれは一体?」
「あれはカモフラージュです。実際にはあの建物の地下に本日の仲介所がどこにあるのか記した暗号があるのです」
「暗号! 正に闇ギルドですね! 私、楽しくなって来ちゃいましたっ! おっと、【探知】に何か引っかかりましたね。これより潜入したいと思います」
なんと、建物には三人の見張りがおりました。
どれもランクAに近い実力を有している事でしょう。
タヒムさんの話によると、見張りは地下にはいないとの事なので、ここの三人を吸血して……、
「はい、地下です! いや~、中々殺風景ですねぇ~。お掃除はされないので?」
「出来るだけ人の手が入っていないよう偽装しています」
「なるほど、闇ギルドのこだわりというところでしょうか。細部までこだわるところは正直好感がもてますよ!」
「ありがとうございます」
「それで、
「こちらです。この部屋にある家具の配置で、法王国の東西南北にある仲介所のどこが開いているかわかります。本日は……北ですね」
「では早速行ってみましょう」
楽しいな、今度ミケラルド商店で企画しよう。
まぁ、まずは闇ギルドの仲介所だ。
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