その316 ミナジリ大会議1

 ミナジリ共和国に戻り、俺は皆から報告を受けていた。


「なるほど、悪趣味という言葉すら高評価……ね」

「あぁ、ナタリーはそう言ってスパニッシュから怒りを引き出した」


 真顔で言うジェイルをナタリーがじとりと見る。


「ジェイル、その話、今必要かな?」

「仲間の知勇を褒め称えるのは大事だ」


 ジェイルは目を伏せナタリーに言った。


「今はそれどころじゃないでしょう!」


 ナタリーはテーブルを叩き立ち上がるも、ジェイルは目を伏せたまま。

 だがしかし、ジェイルが一瞬ビクついたのを、俺は見逃さなかったぞ。

 ここはミナジリ共和国にあるミケラルド商店一号店。その地下に造られている会議室兼、ミナジリ軍司令本部である。

 まぁ、本部=俺だったりするので、主な使用用途は会議になるだろう。

 そう、今回は第一回ミナジリ大会議。

 普段のミナジリ会議ならほぼ身内だけでやるのだが、今回は事が事なだけにそうも言ってられない。

 それ以上に気になる事もある。


「俺ってそんなにハイブリッドだったの?」

「うむ。元とは言え、勇者の身体だぞ」

「俺がったやつだ」

「でも、ミックはミックだから安心して!」


 リィたんは、ふふんと鼻高々。

 ジェイルは、漁師か狩人にでもなったかのような物言い。

 ナタリーは、こういう時だけ優しい。

 俺の出生の秘密を探るためとはいえ、よく三人はまた魔界に行ったな。

 雷龍シュガリオンに負けた時、スパニッシュに聞くしかないとかリィたんが言ってたから、てっきりリィたんだけで行くのかと思ったが、まさか三人とは。

 シュッツの言ってたお出かけってのはこれだったのか。

 三人から粗方話を聞いたところで、ミナジリ共和国の主要メンバーが集まって来る。

 俺、ナタリー、ジェイル、リィたんの他、まずはナタリーの両親。母エメラと父クロード。

 元サマリア公爵の騎士、現ミナジリ邸の執事シュッツシュバイツ

 ランクBの冒険者兼、ミケラルド商店の売り上げ貢献により商人ランクもBに上がったカミナ。

 屋敷の警護を担当している元闇ギルド所属のラジーン。

 業務委託契約によってミナジリ共和国の警備を担当している冒険者ランクSの魔帝グラムス。

 新人教育アドバイザー講師のランクA冒険者サッチ。

 最後に、スパニッシュに雇われていた魔族、ダイルレックス種のドゥムガ。

 皆の着席をもって会議を始めようとも思ったが、最後まで着席しない者が一人。やはりというか何というか、それはドゥムガだった。


「んだよ、こんなところに呼び出してよ? 今からリプトゥア国に転移して行ってリィたんが【大津波】でもキメりゃ一発だろうが」


 とても魔族らしい素晴らしい意見である。


「それで万事上手くいくならそうするよ。でも、そんな事をすればミナジリ共和国は非道な国として周辺諸国からそしられるんだよ」


 俺がそう言うと、ラジーンがドゥムガを見ずに言った。


「身体はでかいのに脳は小さいようだな」


 当然、ドゥムガに聞こえるように言っている。


「あ? ちっと強ぇからって調子のってんじゃねぇぞ?」


 そんなドゥムガにカミナが怒る。


「五月蠅いんだよ、さっさと座る。ミケラルド様が見えないんだよ」

「さっさと始めてくれんかのう?」


 そして魔帝グラムスが小指で耳をほじりながら言う。

 凄い、既視感のある悪人たちの会議って感じがする。

 そんな彼らの耳に二つの破裂音が響く。それはナタリーがパンパンと手を鳴らした音だった。


「はいはい、皆静かにして」


 学級委員長みたいだな、ナタリー。


「それとミック」

「へ?」

「さっきからそのニヤケ面。何なの?」


 悪の組織っぽいところにちょっと感動していたのがバレていたようだ。

 俺は手で口元を隠し、微笑みをまとってから手を放す。


「……場にそぐわないんだけどなぁ」

「へへへ、血が騒いでんだろ。魔族のな」

「いいから、アンタは座る!」

「ちっ。ほらよ、これでいいんだろうがっ!」


 ドゥムガがどんと椅子に座ると、ナタリーが溜め息を吐いた後、再度こちらを見た。


「じゃあミック、始めて」


 学級委員長ナタリーがいなければ、この場は未だ混迷こんめいの一途を辿っていただろう。


「ありがとう、ナタリー。さて、リプトゥア国がついにミナジリ共和国を叩きに来ます。理由はシュッツから聞いた通りです。ラジーン、リプトゥア国の戦力を教えてくれ」

「概算で五万」

「ごっ!?」


 カミナが立ち上がって驚く。

 当然、ナタリー、エメラ、クロードの緊張もカミナに近いものだった。


「内訳は?」

「まず、リプトゥア騎士団が五千。実力は冒険者換算で言うならばランクC~Bといったところでしょうか」

「意外に少ないんだな、騎士団」


 俺の言葉にラジーンが頷く。


「そこがリプトゥア国の強みです。給料を払う騎士団が五千しかいない。この意味がおわかりになりますか?」

「あー、そうか。残りが奴隷って事か」

「そういう事です。ランクA程の戦闘能力の高い剣闘士がおよそ千。残りの四万四千は健康的な男にある程度の訓練を積ませ、武器を持たせただけ……と言えば聞こえはいいですが……」

「ま、その人たちはどうにかして助けたいよね」

「ともなれば、今回の戦争は苛烈を極めるかと」

「四万五千人の奴隷契約解呪とか、一体誰がやるんだか」


 まぁ、俺に視線が集まるのはわかってた事だけどな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る