その317 ミナジリ大会議2
「
魔帝グラムスが椅子の背もたれにどっぷり身を預けながら言った。
「私とジェイルさんとリィたん……」
「おいおい、たった三人で五万を相手どるつもりかよ? 相手は冒険者も雇うじゃろうに」
「それは盲点でした」
「全然そんな顔してないぞい」
「ミケラルド様、私はよろしいので?」
ラジーンが聞く。
「ラジーンとグラムスさんはミナジリ共和国の警護。これは変わらないよ」
「……かしこまりました」
「おい、ガキ。まさか俺様も連れて行かないつもりかよ?」
「ドゥムガはダークマーダラーたちを連れて
「あー……そっちもいたか。まったく、人間界ってのはややこしくてしょうがねぇ」
ドゥムガが押し黙ると、ナタリーがこちらを見た。
「ミック、私たちは……?」
「ナタリーたちは、住民を連れて【オードの町】へ転移。あっちには避難施設も造ってある」
「わかった」
エメラとクロードも静かに首を縦に振る。
「シュッツはダイモンやランド含む部隊を指揮してこれを警護。イチロウとジロウは避難施設に忍ばせておけ」
「かしこまりました」
「俺はどうすんだい? 言っちゃ悪いが、これは契約外の話だぜ?」
そう、サッチとは新人教育アドバイザー以外に契約をしていない。
だからこそ、彼には契約内での話を進める。
「サッチさんは新人冒険者を連れシェンドの町へ避難を。スポンサー依頼名目で課外授業を」
「なるほどな、冒険者の自由を逆手にとり他国へ亡命か。だが、ネムとニコルは連れてけねぇからな」
「えぇ、そちらについてはディックさんにお任せします」
「わかった。さっそく向かう」
サッチが立ち上がり扉から出て行く。
「ミケラルド様……私は?」
「カミナはこの後シェルフ大使館へ」
「大使館に? メアリィ様へは何と?」
「場合によってはシェルフへ避難頂く旨ご説明を。その際、オードの町を経由し、
「それはつまり、リプトゥア国の侵攻がオードの町にも伸びた時、全住民でシェルフへ避難するという事ですかね……」
「大丈夫。シェルフには貸しがあります。その交渉は私がしておきます」
「わかりました」
カミナがすっと立ち上がり、この場を去ろうとした。カミナが扉を開けると、そこには一人の男が立っていた。その圧倒的な圧力に一瞬怯んだカミナだったが、彼女は呑まれないために言った。
「こ、ここは私有地ですよ。関係者以外立ち入り禁止です!」
「すまんな、
その声、その言葉だけでその男が誰なのか皆理解した。
警戒する者多数。驚く者多数。そして、名指しされキョトンとする俺。
「どうしたんですか、
剣神イヅナ。それがこの場に現れた男の名である。
「……これは、ミナジリ共和国とリプトゥア国の間に起こる戦争についての会議かな?」
「えぇ、まぁ」
「では、当事者がおらぬのは何故か?」
おっとそうきたか。
イヅナはカミナを横切り、扉と会議室との境界線に立つ。
「入っても?」
「ダメです」
そう言ったのはカミナ。
だが、イヅナの言い分もわかる以上、俺は彼を招き入れる他なかった。
「いいですよカミナさん。彼は当事者の一人です」
「そう、ですか。わかりました」
カミナが一度イヅナに振り返りながらもこの場を去って行く。
そして、剣神イヅナが境界線を越える。
「当事者ってのはどういう事だよ、ガキ?」
ドゥムガの質問。
「リプトゥア国が冒険者ギルドに依頼を出したんだよ。勇者捜索のね。で、その勇者の所在を冒険者ギルドに伝えたのが――」
「――この爺だってのかよ?」
ドゥムガの鋭い視線も、イヅナは静かにかわす。
「何か問題でも?」
それどころか、静かに睨み返す程だ。
するとドゥムガはイヅナを睨んだまま、ゆっくりと
「おう、何か変な事してみろ。こいつらが黙ってねぇからな」
俺はドゥムガのこういうところは嫌いになれない。
「ほっ、別に何もせぬよ。私は自分を売りに来たのだからな」
イヅナがそう言った刹那、ジェイルが目を丸くしたのを俺は見逃さなかった。
「あ? どういう意味だよ?」
すると魔帝グラムスが高笑いしながらイヅナに言った。
「ひゃっひゃっひゃ! 剣神イヅナがミナジリ共和国に付くって事か! そいつぁ珍事も珍事、大珍事じゃのう!」
「げ! マジかよ!?」
これには皆も驚いたようで、場の空気が一瞬凍ってしまったようだった。
だが、リィたんは違った。
「『売りに来た』と言ったな? その売値は一体いくらだ?」
そう、まだイヅナが味方すると決まった訳ではない。
彼は買い手を探しにここまで来ただけなのだ。
ならば、その価格こそ重要。
さて、どんな吹っ掛けをしてくるつもりだ?
「真実」
「へ?」
イヅナの言葉を受け、素っ頓狂な声を出した俺。
するとイヅナは俺を見ずに、我がトカゲ師匠ことリザードマンのジェイルを見ながら再度言ったのだ。
「真実だ」
なるほど、ジェイルの【勇者殺し】についての答えが対価か。
ジェイルが俺を見る。
「こればかりは私に決められません。ジェイルさんにお任せします」
ジェイルはすんと鼻息を吐き、その場に立ち上がった。
「……いいだろう。負けては意味がない戦いだからな」
この時、この場を
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