その215 旨味出汁
「それは使えるのか?」
「いや、どう考えても無理だと思うよ?」
俺とリィたんが訓練の合間の際、会話に出たのはデスクロークラブの【固有能力】の話。
デスクロークラブから手に入れた【固有能力】は二つ。
ダンジョンのボスである。当然使える能力は備わっていた。
一つは【瞬発力向上】、これはとても素晴らしい能力と言える。
だが、もう一つは残念というか何というか……。
「【
「――だからその発想がもうおかしいんだって」
「何故だ? 良い
「話のダシにはされそうだけどね。まぁ、人間的感性から言うと、俺の風呂の残り汁を欲しがる人はいないと思うよ」
「ふむ、そういうものか」
うんうん、リィたんにはどんどん社会勉強をして頂きたいものだ。
「時にミック」
「何ざんしょ?」
「今回のダンジョン探索で更に力を付けたな」
「そう? そんなに変わった気がしないけど?」
言いながら頬をかいていると、リィたんが俺の眼前にハルバードを向けた。
次の瞬間、ハルバードが俺の顔に向かって飛んで来たのだ。
その先端を
「何かのテスト?」
「その通りだ、これまでのミックだったら絶命は免れなかった一撃だ」
「え?」
何それ怖い。
「筋力、瞬発力、魔力どれをとっても成長していると断言出来る。ミックの強さの根源は得た能力の量以上に、相手の力を得る事なのだろう」
「それってどういう意味……?」
「能力だけではなく、力と魔力も得ていると言っている」
「血や体液を得たら相手の力が加算されるって事か……」
確かに、これまでの魔力の成長は著しかった。
こういった理由があるとわかると納得出来てしまう。
【
「うむ、そのままとは言い切れないが微々たるものでもない。確かに吸収している。強さに際限がないあたりは正に魔王と言えよう」
「そんなもの目指した記憶はないんだけどな」
「最強を目指すのであろう?」
「そりゃまぁそうだけど」
「ならば魔王すら超えてみせろ」
「あ、はい」
とは言え、まだリィたんに勝てないのだ。成長こそするが、その速度は遅々たるものだ。
勿論、他の冒険者からすればとんでもない速度なんだろうけどな。
「ではまた津波からだ」
「おぇっぷ」
溺死待ったなしのリィたんフルコースは、そろそろお腹いっぱいであります。
◇◆◇ ◆◇◆
「【イグドラシルの葉】の買い取りですか?」
冒険者ギルドの受付で俺の質問を聞いたネムは、そう言いながらニコルを見た。
すると、ニコルは静かに首を振る。
「リーガルでは依頼自体がないですね」
「リプトゥア国でもなかったんだよね、何でだろ?」
「それはミケラルドさんの方が詳しいかと存じます」
と、横からニコルが言ってきた。はて?
「ミケラルドさん、ご自分が商人だという事を忘れていませんか?」
「あぁそっか、【規制品】!」
「そういう事です。イグドラシルの葉は規制品。売買は商人ギルドを通すものです」
「そっかそっか、完全に失念してました。失礼しました」
「いえ。ところでミケラルドさん」
「はい?」
「そのイグドラシルの葉、今回はいくつあるのでしょう?」
「いや、三十階層って意外に時間掛かって、十枚だけ……」
「商人ギルド受付員の心臓のため、一枚だけ見せてくださいませ」
「ははは……」
そんなやり取りの後、俺はマッキリーへ転移した。
「あ、ミケラルド様! お疲れ様でーす!」
「やぁカミナ、お店はどう? 何か困ってない?」
「順調も順調ですよ! ミスリル関係の武具も売れてますから、今月の収支も安心出来そうです!」
「おっけ~、
「はい!」
マッキリー店の中では、ミナジリ領の領民が手慣れた手つきでお客を捌いている。
カミナの指導もいいのだろう。今度ボーナスでも出すか。
心豊かに、お財布も豊かに、それがミケラルド商店のモットーである。
「おはようございます、ミケラルド様」
マッキリーの商人ギルドへ到着すると、いつもの受付員が深々と頭を下げる。
「おはようございます」
「本日も商品登録でしょうか?」
「えぇ、少々貴重なモノを仕入れまして」
「これまでにそうでなかったためしはないかと」
さて、ニコルの話を
「ははは、今回はダンジョン産ですよ」
「……それはどちらの?」
外堀から埋めていけば、自分から気付いてくれるだろう。
「リプトゥア国の首都」
「――っ!」
何故なら相手は情報を何よりも重んじる商人ギルドなのだから。
「か、かしこまりました。商人ギルドへ卸して頂けるという事でよ、よよろしいでしょうかっ? ……か?」
それでもこの反応か、ニコルの助言も間違いじゃなかったな。
「おっと、当然勉強して頂けるんでしょうね?」
【交渉】の発動を忘れてはいけない。
「も、勿論です! どうぞ、奥へ!」
さぁ、ランクAダンジョンのクリア報酬はいくらになるのか……!
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