その214 リプトゥアのダンジョン4

「さて、最後のゾーンだな」


 そう言いながら二十六階層へ降りると、そこはランクA冒険者にとっては正に地獄のような場所だった。


「うわぁ……オールスターじゃないか」


 グリーンワーム亜種、ロックキューブ、エビルゾンビ、キラービーエース、銀狼に金狼。サイクロプス、レッドデッドボア、リンクモンキーにアサルトカメレオンと勢揃いである。

 この二十六階層含め五階層もこいつらとやり合うと考えた時、俺の肩はガクリと下がる他なかった。


「なら、これまで使わなかったコレかな!」


 大きく息を吸い込む。そして極大の音圧と共にそれを吐き出す。


「オォオオオオオオオオオオオッ!!!!」


 この【遠吠え威嚇】により、周囲の緊張が明らかとなる。眼下に見えるアサルトカメレオンは、完全に萎縮してしまっている。

 俺が駆けると同時に、緊張の糸が切れるも混乱は避け得なかった。

 銀狼を斬り、ロックキューブを斬る。

 他のロックキューブの反応により、熱光線が照射。

 しかし、その熱光線を上手く誘導すれば、サイクロプスの背中に直撃する。

 サイクロプスはロックキューブを睨み、敵と認識したのか、叫び声を上げながらロックキューブを掴み、放り投げた。

 これによりロックキューブたちの攻撃対象は俺からサイクロプスに移る。

 それを他のモンスターでもやってやれば、辺り一面大混乱祭りである。

 ロックキューブという獲物の取り合いでモンスター同士の抗争が起き、更に別種が参戦すれば抗争は大抗争へと変わり、エビルゾンビの強酸が吐かれればその異臭を攻撃と判断したリンクモンキーが仲間を呼んで波となる。

 俺はそれを横目に見ながら呟く。


「なるほど、これは設計ミスだな」


 とは言え、この大乱闘地帯を超えるのは至難の業と言えるだろう。

 邪魔な奴だけ倒し、手に入れたばかりの【擬態あらた】を使い、周囲の警戒には【散眼】を使う。そして、鼻歌交じりに階段へ向かえばこの階層の攻略は成ったようなものだ。

 階段が見えると同時に宝箱の出現。モンスター同士が倒し合っても数にはカウントされるという新たな知見を得る。

【遠吠え威嚇】の意外な使用方法だったが、今後も役に立ってくれそうだ。


「残念、外れ」


 そんな流れを繰り返し、あっという間に三十階層を攻略し、最終階層へと着くのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「……神殿?」


 階段を降りると、造形が凝った神殿のような建物が目の前に見えた。

 水色に統一された人工的とも言える石柱を横目に、俺は溜め息を吐いてしまった。


「何か、出現するモンスターが想像出来てしまう……」


 このゲーム脳をどうにかしたいものだが、この世界から見ればこれは過去の遺産。当然、攻略には役立つ。しかし、同時に落胆してしまうのも無理はない。

 神殿に入るなり見えたのは巨大なプール――もとい水浴び場のような一帯だった。

 奥にはやはり宝箱と光り輝く大きな葉が見える。あれが【イグドラシルの葉】だろう。

 相手モンスターが水属性だという事は明らかだった。

 プールに近付くと姿を表す巨大な黒いかに

【鑑定】情報によると【デスクロークラブ】と見えたが、それはどうでもよかった。

 何故なら俺は、水龍リバイアタンの血を吸った男。

 水龍リバイアタン……リィたんから得た能力は二つ。【龍の血】と……、


「水龍眼」


 俺がデスクロークラブを見るや否や、奴の動きはピタリと止まってしまった。

 水龍眼――下位モンスターへの絶対威嚇と萎縮。

 実力的に勝っているであろう俺が発動してしまえば、ランクAダンジョンのボスであろうとそれは下位扱いなのだ。


「とんだ肩すかしだった……」


 そう、俺が落胆した理由は、相手が水属性モンスターだったからだ。

 だが、水龍眼の威力も確認する事が出来たし悪い結果ではない。


「二週目に攻撃パターンと対策を検証するかー」


 そうぼやきながら、蟹ちゃんの体液をじゅるり。


「うま!? いやうま!? めっちゃ美味い!」


 すまん、デスクロークラブ……落胆したのは間違いだった。

 今日は……蟹鍋だ!


 ◇◆◇ ◆◇◆


「美味い」

「いやジェイルさん、そんな真顔で言われても……」

「超美味い」


 黙々と蟹の身を食べ続けるジェイルを脇目に、俺は頬杖を突きながら隣を見る。


「はぐ! はむ! んん~~~っ!」


 どこぞのハーフエルフもとても嬉しそうである。

 デスクロークラブのサイズは水龍バージョンのリィたんの半分程。

 身だけで言えば、かなりの量になるだろう。

 ドゥムガやクロードたちにも差し入れし、何故かネムはナタリーの隣で同じように唸っている。


「確かに美味。ミナジリ領の食糧問題……というより名産になるのではありませんか?」


 そして何故かシレっといるニコルからもっともな意見が出る。


「やっぱりそう思います?」

「えぇ。あ、おかわりです」


 仮にも貴族という事を忘れられている気がする。

 まぁ、相手はニコルんである。俺は笑顔でおかわりを盛り付けるのだ。


「ならば私が潜ろう」

「うぇ、本当ですか?」

「食料調達はシェフの仕事だ。それに、そこであればドゥムガとレミリアのいい訓練となるだろう」

「確かに」


 ちゃっかりレミリアを労働力として考えてるあたり、ジェイルも人間界が板についてきたのだろう。

 イグドラシルの葉とデスクロークラブという食材に、リプトゥア国ダンジョンの真価を見出した俺たちは、着々と立国への準備を進めるのだった。

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