その213 リプトゥアのダンジョン3

 銀狼からは【気配遮断】と【超突進力】。金狼からは【ブレス】と【超嗅覚】。

 この四つの【固有能力】が手に入った途端、十二階層以降の攻略は楽になった。

 銀狼の背後に現れてはヒャッハーし、隠れながら金狼を見つけてはブレスでお掃除。

 やはりダンジョン攻略には当該階層のモンスター能力を得られれば、円滑に進むようになるという事だ。

 徐々に、【いつものセット】が強化されている事に興奮し、俺は鼻息荒く十六階層を目指した。


「うぉ? 凄いなこれは……」


 口を大きく開けてしまう程の驚き。

 十五階層から階段を降りると、そこは見渡す限りの巨大な草原。

 迷路要素がなくなり、遠目には地下へ降りる階段が見える。

 キッカから聞いていたとはいえ、目の当たりにすると驚くものだ。

 正に、百聞は一見にしかずだな。


「とは言っても……こりゃハードな場所だな」


 草原を闊歩するのは、首都リーガルダンジョンのあるじでもあるサイクロプス。

 その半分程のサイズだが、ドゥムガの二倍はありそうな巨大な赤い猪――レッドデッドボア。なるほど、確かにサイクロプスから得た【視野拡張】と【打撃耐性】があれば、ここの攻略は簡単だな。

【視野拡張】で地下への階段を見つけ、【打撃耐性】を発動しながらサイクロプスとレッドデッドボアを警戒する。

 予め片方の能力を得ていれば、後はサクっとレッドデッドボアを狩るだけ。

 少々体表が硬い相手だったが、オリハルコンの打刀うちがたなの前では豆腐も同義である。


「よし、【鉄頭】と【外装超強化】ゲット!」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 順調に階下へ進み、二十階層の宝箱でまたレア発見。


「今度は【防御のジレ】か。ここまででかなり防御能力向上したな。こりゃリィたん相手の存命時間も伸びるんじゃないか?」


 まぁ、あくまでタイムが伸びただけで、何の解決にもなってないんだよな。

 そして遂に二十一階層。


「なるほど、今回は岩石地帯ね」


 ダンジョンサイズは十六階層から二十階層と変わらぬまでも、天然の迷路のようなオプションが増えていらっしゃる。

 おそらく一般の冒険者がしないであろう高い岩の上に立てば、ここのマッピングも一瞬なのだ。


「キ?」


 岩のテッペンで真っ赤な顔の猿と目が合う。

 ――瞬間、


「キィイイイイァアアアアアアアアアアアッ!!」

「うっさ!?」


 咆哮なのか悲鳴なのか全くわからないが、その叫び声がダンジョン内へ響くと同時に、周囲の岩陰から同様の叫び声が聞こえた。これは……まるで同調!?


「「ギィイギィイ!!」」


 岩下に無数の猿が現れ、岩の天辺を目指して登ってくる。


「なるほど……このリンクモンキーに見つかれば一瞬でモンスターハウスになるって事か」


 と、リンクモンキーを斬った打刀うちがたなから血をペロリとした後、俺は過去ダンジョン内で使った事のない魔法を発動した。


「さような――らっ!」


 発動したのは先日俺がリィたんに殺されかけた魔法――津波である。

 リィたんの魔法威力には及ばないが、この猿たちを呑み込むには丁度良い。

 リンクモンキーの叫び声が完全に悲鳴に変わる。

 津波という難を逃れ、這い上がって来たリンクモンキーには、俺の蹴りか斬りをサービス案内する。

 リンクモンキーから【超視覚】と【脚腕きゃくわん同調】をゲット。


「……何だこの【脚腕同調】っての?」


【超視覚】は文字通りなのだが、こちらはいまいちピンと来ない。

 ならばと思い発動すると……っ!?


「……はは、すげ」


 岩下へ降り、軽く打刀うちがたなを振る。

 すると、俺が今まで登っていた高岩は一瞬にして形を崩した。

 切断された岩が粉々になるまで、ほんの二秒程だった。


「なるほどね、脚力は腕力の三倍って聞くけど、その脚力と同調したのがこの腕力って事か」


 いかにも猿らしい能力である。

 ここから野生児デビューしても生きて行けるのではなかろうか。


「ん?」


 気付いた時には遅かった、俺の腹部にはサーモンピンクな縄が巻き付けられていた。

 直後、物凄い力で引っ張られてしまう。


「お! おぉ!? この!」


【脚腕同調】を発動しておいて助かった。何とか踏みとどまる事に成功。

 この階層……ならば、【超視覚】だな。それを発動すると、岩にへばりつき俺を見る二つの丸い眼球が見えたのだ。


「アサルトカメレオンか!」


【超視覚】がなければわからぬ程の擬態能力。


「て事は、この縄は……舌かよ!? ばっちぃな、おい!」


 とは言いつつもピンチである。

 これを掴む以外の選択肢はなかった。

 アサルトカメレオンの長い舌を掴み、引き、放り投げる。

 大岩に直撃したアサルトカメレオンが絶命すると共に、【クリーンウォッシュ】を発動。


「ふぃ~、スッキリ……」


 その後、アサルトカメレオンから血を頂き、【擬態あらた】と【散眼さんがん】を得る。


「【散眼】って両目が別々に動くやつだよな? 何それキモい」


 変なおじさんデビューするのも近いのではないか。

 そう思うミケラルドさんだった。

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