その209 ドゥムガ改
「だぁああああっはっはっは!」
意気揚々と駆けるドゥムガ。岩のような拳がレミリアを襲う。
というか、結局ドゥムガが先攻だったか。まぁ、性格上そうだろうとは思っていた。
「なるほど、ただの大男ではないという事だな。しかし――」
「――あぁ!?」
「当たらなければどうという事はない」
瞬時にドゥムガの背後に回ったレミリアが、オリハルコンの剣でその背を払う。
「おぉっと」
円の動きでくるりとかわし、レミリアの剣を受け流すドゥムガ。
え、何あの大男? 勝負になるとは思ってたけど、あんな技術特化タイプだったっけ?
「ならばこれはどうだ!」
沖田総司も真っ青な三段突き改め散弾突き。
凄いな、一瞬で十五の突きを叩き込んだ。
しかし、ドゥムガはその全てを両の腕で受けきった。
衝突し合う金属音に、レミリアが眉をひそめる。
「仕込み
「おう! ミケラルド
余ってたから作ってみたんだよね。
強力な戦力にはやっぱり強力な武具ですし。
「よかったな、腕は無事だぞ」
言いながら、レミリアの剣は更に加速した。
「お? おぉ? おっ!? おぉおおお!?」
止まる事のない突き。ドゥムガの身体がいくら強固でも、相手の得物は木剣ではない。
オリハルコン製の逸品なのだ。受ける事しか出来ないドゥムガでは、これが限界か。
そう思った矢先、ドゥムガは一歩前へ出た。
「っ!」
一歩、一歩、更に一歩。急所だけは避け、徐々に迫るドゥムガの気迫の行進に、レミリアの剣が鈍る。
「くっ!」
「今だ! おぅら!」
ドゥムガの身体を走る雷。あれは疾風迅雷の発動。
急激に瞬発力の上がったドゥムガが、レミリアの剣を掴む。
「ぬぅ……!」
ドゥムガの両手で挟まれた剣はびくともせず、レミリアの表情が曇る。
「へへへへ、力で俺様に勝てると思うなよ?」
「それは……どうかなっ!」
彼女が発動したのは身体能力強化の特殊能力。
剣を持つ手に更なる力を込めた時、ドゥムガの目から余裕が消えた。
足を開き腰を落とすドゥムガに、レミリアが言い放つ。
「どうした? 腰を落とさねば防げぬというのか……?」
とか言いつつも、レミリアの手もかなりプルプルと震えていらっしゃる。
「ウェイトが足りねぇんだよ。どれだけ力を込めようと体重が軽くちゃ意味がねぇ……!」
「お褒めに与り光栄だ……!」
「褒めてねぇんだよ! まるで羽みたいだぜ!」
「体型の維持には苦労しているものでな! 感謝しよう!」
「だから褒めてねぇんだよ!」
魔族にはダイエットとかそういう風習はないんだろうな。
いや、まぁドゥムガの場合だけかもしれないが、元人間から見ればレミリアを持ち上げまくっているようにしか聞こえない。
「お、おぉおおおお!」
とか思ってたら、遂にドゥムガが物理的にレミリアを持ち上げた。
「このっ!」
危険を察知したレミリアは即座に剣から手を放し、大地への帰還を急いだ。
だが、レミリアの眼前にはドゥムガの強固な右肩が迫っていた。
「どぅらぁああ!」
「っ!」
強烈な突進を正面から受けたレミリアが吹き飛ぶ。
「まともにいきました?」
「いや、後方へ跳んで緩和している」
ジェイルの言葉通り、レミリアのダメージは殆どなかった。
中空でドゥムガを睨むレミリアだったが、そのドゥムガはまだ止まっていなかった。
「おらおらおらおらぁああ!」
まるで重戦車の如く突進するドゥムガ。
レミリアの着地と同時、更なる一撃の足音が迫る。
横に転がってかわすレミリアは、身体に土を纏いながらも大地に突き刺さった剣へ向かって跳ぶ。
反転したドゥムガもそれを察知していたのか、ほぼ同じタイミングでレミリアの背を追った。
「と、届けっ!」
「させるかよぉ!」
その時、ジェイルが言った。
「なるほど、剣聖と称されるだけはあるな」
剣を手にし、この勝負に勝ったのはドゥムガ。
しかし、レミリアはこの駆けっこに参加をしていなかったのだ。
「何だとっ!?」
オリハルコンの剣すら駆け引きの道具としたレミリアの腕が神々しく光る。
あれは、勇者エメリーのオーラブレイドを、更に簡略化した手刀の剣。
喉元に突き付けられたソレに、ドゥムガが驚きを露わにする。
「私に【
俺とジェイルは見合い、ワナワナと震えるドゥムガを見てから声を揃えた。
「「勝負あり!」」
◇◆◇ ◆◇◆
「くそぉぉおおお!! レミリア! もう一回だ!」
「ダメだ、後が閊えている」
「後って何の事だよ!?」
「ジェイル殿との勝負が三本、ジェイル殿との勝負が四本、ジェイル殿との勝負が三本だ」
「間にドゥムガを挟めよ! つーかジェイルとの十本勝負じゃねぇか、それ!」
「ドゥムガはまず己自身と戦った方がいい」
「一回勝ったくらいで何自分のが高みにいると思ってんだてめぇ!」
「ならば一回負けたくらいで己の品格を下げるな」
「負けてねぇし! あんなチンケな手刀如きで俺様の命を刈り取れると思ってんじゃねぇぞ!」
「では、手刀を首に刺した後に戦闘再開といこうではないか?」
「お、おぉ! おお! じょ、上等だ!」
「何だ、やはり自分で私を上に見てるではないか」
「てんめぇえええええ!!」
このやり取りをいつまでも見ていたいが、ドゥムガ終了の
その足音を聞き、ドゥムガの姿勢がピンと伸びるのだ。
「あ、ドゥムガいたー!」
「っ!」
ドゥムガが恐る恐る声の主へと振り返る。
「こ、これはナタリー様……へへへ」
巨躯のドゥムガが一気に小さくなった瞬間だった。
手を揉みながらナタリーに媚びへつらうドゥムガの姿に、レミリアが固まる。
「今日は子供たちの滑り台役って言ったでしょ! 何でこんなところにいるの!」
「いや、ははは……ジェイルとの訓練がありまして……」
「それは後でも出来るでしょ! それと、口答えしないの!」
「へい!」
凄い、調教師のようだ。
まぁ、ナタリーの腕食べちゃった事を差し引きで考えると仕方ないか。
「いい? 今日のあなたは無機物よ! 無心で滑り台になるの!」
世界広しといえども無機物デビューをする魔族も珍しいだろうに。
「ど、どれくらい……?」
「子供に飽きが来るわけないでしょ! 皆が寝るまでは滑り続けるからね!」
右腕を食われた時の青ざめたナタリーと、今のドゥムガ……果たしてどちらの方が青くなっているのか。
そんな疑問を抱きつつ、俺はくすりと笑みを零す。
「あとお茶!」
「へ、へい!」
ドゥムガの尻をペシンと叩き、ナタリーがドゥムガを追い立てる。
まるで羊と牧羊犬を見ているようだ。
二人が見えなくなった後、レミリアが俺に聞いてくる。
「あの少女は……そんなに強いのか?」
そんな三強ナタリーに、レミリアは何を感じたのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます