その200 ごぉすとばすたぁみっく
と、自己紹介をしたはいいが、この事故物件の
二階へ行かせたくないのか、奴は俺に向かい手を伸ばした。
「っ! またか!」
奴が触れた訳でもないのに強い衝撃。
心霊現象と言ってしまえばそれまでだが、この感覚……もしかして?
「ぬん!」
サイコキネシスで障壁を作り上げると、その障壁部分が音を発したのだ。
「やっぱり、奴もサイコキネシスを使ってるのか」
道理で攻撃が見えない訳だと得心した俺は、その障壁を維持したまま奴に跳び込んだ。
すると、奴は攻撃方法を変えてきたのだ。
思い切り障壁を平手打ちしたと同時に、サイコキネシスの障壁は音を立てて消える。
「すんげぇ馬鹿力……!」
「浅いかっ! おわっ!?」
張り手した右手に小さな傷を与えたものの、俺の右脚は奴の左手に捕まってしまった。
「あ、これ知ってるやつ……」
衝撃に備えるために、俺は防御系の能力を発動した。
その中でも有用なのは【石頭】、【打撃耐性】、【外装強化】あたりだろう。
何故ならこの後起こるのは、衝撃のオンパレード……!
とんでもない膂力で掴まれた俺は、奴の武器となった。振り回され、壁にぶつけられ、床に叩きつけられ、そして放り投げられる。
「あいちちちち……」
正直ダメージ自体はほとんどない。
ただ、ランクS冒険者の魔帝が失敗したというのもわかる気がする。
確かにこいつは……
だが、これはビジネスなのだ。ごぉすとばすたぁのお仕事である。
パッと見た感じ、倒せない系の敵ではあるが、いざ戦ってみると何とかなるものだ。
さて、そろそろ反撃といきたいところだ。
「こんな危険なところにいられるか! 俺は自分の部屋に戻る!」
一度は言ってみたいホラー名言を言い放った後、俺は奥の部屋に向かう。
他人の屋敷内のどこに俺の部屋があるのかは不明だが、書斎と思しき部屋に入る。
「待てよ? 今のはミステリー名言かもしれないな?」
言いながらバタンとドアを閉めると、廊下からおよそ足音とは思えない轟音が近付いてきた。
気軽に開けるような感じでドアを粉砕して入って来た女は、奇声を発し威嚇した。
だが、そこに俺はいない。
天井に張り付いていた俺は、ふわりと天井を離れ静かに女の脳天に向かって剣を突き出した。スッと入っていく刀と共に、女の挙動がピタリと止まる。
床への着地の後、
何せ相手はオカルト目美人科スレンダー属だ。エンドロールの直前か後に復活するタイプである事は容易に想像出来るからだ。
……手応えはほとんどなかったし、血が出ていないのも不可解だな。
直後、俺は女に異変を感じ取った。
「そんなのありっ!?」
幽霊なら何でもアリなのだろうか。
脳天から床に向かって刺さった
「透過能力はずっこい!」
俺は後方に跳ぶも、女も物凄い勢いで前進してきた。
「くっ!」
過去例を見ないであろう、悪霊的美女と吸血鬼の
両手の指を絡ませる通称
強化能力をふんだんに使い、屋敷内で押し合いっこ。
女が唸りながら歯をカチカチ鳴らすと、「あれ? これってゾンビ物だったっけ?」となるも、その力は凄まじく、俺が押し返せない程である。
「なら……全開だ!」
【覚醒】を発動し、女を押していく。だが、そこで俺は失念していたのだ。
床に刺さった
「あぶなっ!? つーか、透過能力器用過ぎません!?」
自分から刃に跳び込む勇気はなかった俺は、急ブレーキを掛けその場でピタリと止まる。
しかし、今度は女が俺を引っ張ったのだ。
「嘘っ!? 昨今の悪霊ってこんなに知略家なの!?」
一体誰が悪霊的存在をバトル素人だと定義付けたのかは不明だが、女は確かに俺との戦闘で心理的駆け引きを使っている。
「おらっ!」
俺は女を持ち上げ反対側へ投げ……嘘?
女は天井に足を付け、そのまま俺を押した。
「ちょっとたんま! その髪! 鼻がくすぐったい! ちょっと! クシャミ出るからマジで!」
美女の黒髪で鼻をくすぐられるのはご褒美なのか罰ゲームなのか。
それはともかくとして床が抜けた。
「普通は天井のがやわいんだよ!」
俺の悲痛の叫びはどこへやら。
女は俺と共に一階へ下り立った。
「どうにも倒せそうにないなこりゃ……」
警戒しながら腰を落とし歯を剥き出しにする女を前に、俺は溜め息を吐いた。
物理攻撃が無理なら……これだな。
手から出したのは光の剣。勇者エメリーの魔法を模倣したこの魔法は、きっと奴の弱点だろう。何故なら奴の目は、俺よりこのオーラブレイドに向かっている。
明らかな警戒は俺ではなく
「なら……これでどうだ!」
魔力量にモノを言わせたオーラブレイドの二刀流。
これにより、女の足が一歩、また一歩と後退していく。
直後、女は再びサイコキネシスを発動し、部屋中のものを俺に向けたのだ。
俺もサイコキネシスの障壁でそれらを防御する。
「……なるほど、
全ての攻撃を障壁で受けきった時、女は姿を消していた。
最初道を塞いでいた二階が怪しいのだが、俺にはそれ以上に気がかりな事があったのだ。
「これ……後片付け俺がやるの?」
部屋中に散乱した本や調度品や割れた皿を見ながら、俺は誓った。
「そうだ、最初から荒らされていた事にしよう」
脳内でそのプランが決まった後、俺はスキップで二階へ向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます