その151 シェルフのギルドマスター
「――っと……」
俺がギルドに入ると同時、周りから視線が集まった。
これは、エルフが人間に寄せる奇異の視線ではなく、単純な羨望の眼差しなのだろう。
見るからに目に憧憬の念が込められている。
確かに、シェルフを救ったという事実はあるだろう。だがしかし、ぬぅ……これはこれで肩身が狭いような気がする。
依頼のボードを見るも……なるほど、シェルフってのはそもそもが平和なんだなって思える内容ばかりだった。モンスターがほぼいないのか、あったとしてもゴブリン討伐などのランクの低い討伐ばかりである。
道中モンスターを見かけないはずだ。武力を求めリーガル国へ赴くはずだ。ダドリーやクレアが精鋭と呼ばれるはずだ。この国は、武力を必要としない国なのだ。
依頼の多くは護衛、パトロール、採取、調査である。
こりゃ、俺がここで活躍する場面はないだろう。
「ん? ……これは」
俺が見たのは、真新しい羊皮紙に書かれた依頼書だった。
「ハハハ、首都リーガルへのお使いね」
目的は
依頼主はバルト商会以外の小さな商会、もしくは低ランクの冒険者かもしれない。
そんな考察をしながら依頼書を読み漁っていると、背後から人の気配がした。
「あのぉ……」
「はい?」
冒険者ギルドの受付嬢だろうか、やたら緊張した面持ちで俺を見てくる。
しかし流石エルフ。顔立ちが整ってる事、整ってる事……。
「ミケラルド様……で、お間違いないでしょうか?」
「えぇ」
「当ギルドのギルドマスターが是非お会いしたいと申しているのですが、お時間ありますでしょうか?」
はて? ギルドマスターが?
まぁ、ギルドの依頼を消化して顔を売っておこうと思っていたくらいだ。
こなすべき依頼があまりない以上、ギルドマスターと会うのは悪い事じゃないだろう。
「問題ありません」
「ありがとうございます! ではこちらへ」
パァッと顔を明るくしたエルフは、ちらちらとこちらを見ながら俺を奥へ案内した。
やはり、地域性を考慮しているのだろう。働いている職員は皆エルフである。
絶対中立の冒険者ギルドといえど、この部分までは変えられないのだろう。
そういえば、商人ギルドもそうだったな。
「リンダ様、ミケラルド様がいらっしゃいました」
『通してくれ』
リィたんを彷彿するような強く芯のある女の声。
声と名前から女という事はわかるが、ギルドマスターが女性というのは初めてだな。
支部長室へ入ると、そこには毅然と佇む女エルフが立っていた。
おぉ……珍しい髪型だ。ツーブロックかと思えば、あれはおそらく後頭部の下半分まで全部刈り上げている。しかし、上半分はボブ程の長さがある。これを後ろで縛っているのだろう釣り目の美人だ。
マックスならきっと彼女を見て、「
「よく来た。掛けてくれ」
「失礼します」
俺が入室すると、案内してくれた受付嬢は元の業務に戻るべく、去って行った。
椅子に掛けた俺は、遅れて正面に座った彼女の目を
「先の
「……戦?」
「おいおい、ダークマーダラー三百を相手にして戦じゃないって言う気かい?」
やっべ。
「あ、あぁ! はい、確かに戦ですね! はい!」
「言う気だったかい」
「はははは。そ、それで、今回はどのようなご用件で?」
「早速本題かい? まぁ、下手な前置きは私も嫌いだ。でもこれだけは言わせてくれ」
「はい?」
「シェルフのギルドマスター、リンダだ。よろしく」
大事なやつだった。
「ミケラルドです、こちらこそ宜しくお願いします」
軽く握手を交わした俺とリンダ。
「まず、このギルドを見て残念に思ったかもしれない」
「モンスター討伐が少ないから……ですか? 別に悪い事じゃないと思いますけど」
「確かに見ようによっては悪い事じゃない。しかし、先のような問題が起こった場合、対処出来る者がいないというのも問題だ」
「冒険者の質の向上、これに限界があると?」
リンダは頷く。
「そこでミケラルド殿だ」
「はて?」
「当ギルドは、特殊依頼形式で、ミケラルド殿に冒険者の指導を依頼したいと考えている」
「つまり、ギルドからの直接依頼?」
「実は既に依頼書が完成している」
そう言いながらリンダは俺に一枚の羊皮紙を向けた。
何とも手の早い事で。
「ミケラルド殿の承諾があり次第発行するつもりだ」
俺はその依頼書を受け取り、まじまじと見る。
報酬はシェルフ白金貨五枚。参加冒険者はおよそ百。……ん?
「あの」
「どうした?」
「協賛にバルト商会の名前があるんですけど……?」
「先日寄付金があってな。もしミケラルド殿がいらした時は彼のために使って欲しいという話があったんだよ」
「それ、問題ないんですか?」
「それとは別で余分に貰っている」
なるほど、問題ないようだ。俺個人としては問題大アリだけどな。
しかし凄いなバルトのヤツ。こんなところにまで手を伸ばしているのか。
まぁ、寄付という形式だが、これを頻繁に行っているとすると、冒険者ギルドも便宜をはからざるを得ないだろう。
「これならば、ミケラルド殿にも利があるだろう?」
「利、といいますと?」
「我々も馬鹿じゃない。ここには顔を売りに来たのだろう?」
まぁ、それくらいはわかるか。
「それについてはもう十分に売れていると言いたいが、その実力を見た者は皆無と言っていい。ならば指導という形式で冒険者の前に立てば、良い情報商材となるんじゃないか?」
「確かに悪くない話ですね」
仕方ない、いっちょやってみるか……先生ってやつを。
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