その152 ミケラルド先生
シェルフのギルドマスターの「すぐに集まる」という言葉により、当日中に開催が決まったミケラルド養成塾。
俺が応接室で待ち、お茶の二杯目でも欲しいかなと思った頃、リンダが戻って来た。
「集まったぞ」
「うぇっ!? もう!?」
「エルフの情報網を甘くみるな。テレパシーで一瞬だぞ」
エルフの連絡網を甘く見ていた。
「今やミケラルド殿は、このシェルフでは時の人と言って差し支えない。冒険者は皆、仕事なぞしている場合ではなかった様子だ」
怪しいセミナーの講師になったような気持ちだ。
「既に裏の広場で多くの受講生が待っている。さぁ行こうじゃないか」
「ところでリンダさん」
「何だ?」
「その弓は一体?」
「私の武器だが?」
「講師をされるので?」
「受講生だが?」
「あぁはい」
つまり、自分も受けたかったのか。
冒険者のギルドマスターなんて、冒険者あがりで構成されていると言っても過言ではない。強者に挑みたいという冒険魂は尽きていないという事か。
「ちなみには私はランクSで、現役の冒険者だぞ」
「へぇ、じゃあ何でギルドマスターに?」
「ここらではランクSはおろか、ランクBの依頼ですら珍しいからな。安定した収入を得るにはこういう逃げ道もあるという事だ」
何と世知辛い。
「それに、ランクSといっても名ばかりだ。実際にはベテランのランクAってところだろう」
「あぁ、そういえばランクA冒険者を十年続けるとランクSになれるって、ディックさんに聞きましたね」
「そうだ。ディックもその口だ」
あのおっさんもそうなのか。
「しかし、実力でランクSになった奴らは皆化け物じみている」
「冒険者ギルド主催の武闘大会……ですか?」
「そうだ。あの武闘大会もそろそろ開催する頃だろう。
「因みに、どんな人がその武闘大会の出身なんです?」
「そうだな……ランクSの
どれも怖そうな二つ名ばかりである。
そういや、うちにも勇者殺しとか水龍とかいるな。
こう考えると剣神も破壊魔も優しく思えてくるから不思議だ。
「彼らの拠点はリプトゥアか
リプトゥアの南にある法王国。その法王国の東にあるのがドワーフの国ガンドフ。
「ガンドフは人間と交流があるんですか?」
「ガンドフが門戸を開いているだけだ。あそこは誰でも受け入れる文化がある。個人単位であれば気にする者もいないさ。それに、ガンドフはドワーフの国、武具に強さを求めるならば、皆あの国を目指す」
是非とも、ドワーフの凄腕をミナジリ領に招きたいところだ。
そういや俺の【
帰ったら色々試してみるか。
リンダとそんな話をしながら歩き、やがて広場へと着く。
「うわぁ……」
シェルフに来て何回吐いただろうかと思う程の呆れた声。
目の前に広がるエルフの多い事多い事……。
目算で大体二百ってところか? 一時間足らずでよくここまで集まったな。
「ふっ、何だその目は?」
「大変そうだなぁ、と」
「模擬戦をやるだけだ。そう、二百回程」
数の概念がぶっ壊れていないだろうか、このギルドマスター?
◇◆◇ ◆◇◆
ランクG、ランクFのエルフから指導を始め、各冒険者の弱点を指摘しつつアドバイスを少々。面白い事に、ランクDを超えたあたりから弱点が減り始めた。これはおそらくエルフの特性なのだろう。人間の冒険者なら弱点を活かす考え方をする者、個性を伸ばす方に意識を傾ける者が多い。しかし、エルフは典型的なオールラウンダー。
確かに保守的な考えをするエルフが多いから、この傾向はわかる。
わかるが、個人戦には向かないだろう。
こういった能力の均等化が見て取れるならば、集団戦を磨いた方が実力は向上しそうだ。
「あと、三人ですね」
「何という体力……! これだけ相手にして汗一つかかぬとは」
依頼してきた
「お願いします!」
「ダドリーさん、昨日ぶりですね」
「あなたに頂いたこのフレイムダガー……無駄にはしないつもりです!」
凄い決意だが、それはつまり……刺すなり斬るなりするって事だよな?
さて、ダドリーの実力を見るのはこれが初めてと言っても過言ではない。
エルフの精鋭――ランクBの実力は如何に?
「ふっ!」
「凄い突進力ですが、まだ余力が見えます。もっと足に魔力を集中して、はいもう一回」
「くっ!」
「いいですよ。更に込めてみましょう。凝縮する感じです。もう一度!」
「こ、このっ!」
「ランクAが見えてきましたよ! どんどんいきましょう!」
◇◆◇ ◆◇◆
「……あの場から一歩も動かせなかった……」
四つん這いになりながら自分を嘆いているダドリーを慰める者はいない。
何故なら残った二人はリンダとクレア。
リンダは性格上慰めないし、クレアは俺の前に立っているのだから。
他の者は体力が回復してきてはいるが、模擬戦を見るだけで精一杯のようだ。
さてさて、クレアたんの実力は?
「ファストエアロ!」
「はい、心地よい風ですね。ですが斬撃には程遠いですよ。もっと薄くしてください」
「ファストエアロッ!」
「ほどよく練られてますね。しかし切っ先ばかりを意識してしまって、風の刃の面が疎かです。上下から叩けばあら不思議! ほら、簡単に弾けます。この弾きを意識し、複数の刃を構成した方がいいでしょう」
「ファストエアロォオオ!!」
「ですが、こうやって関節を外すと簡単にかわせます。理想は髪の毛一本程の極薄の刃を、そうですね、百枚刃くらいを目指しましょう」
◇◆◇ ◆◇◆
「……あの笑顔は何……? 何で一瞬であんなに関節が外せるの……? ぐにゃって……ぐにゃってなった……」
ダドリーと揃っての四つん這い。
クレアにはもう少しお尻を突き出して頂きたいものだが、それは叶わぬ夢だろう。
がしかし、これからも是非、頑張って頂きたい。
さて、これが最後か……。
「私の番だな」
シェルフのギルドマスター、リンダの実力は如何に。
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