その132 ミナジリ領
◇◆◇ ネムの場合 ◆◇◆
大ニュースです!
何と、あのミケラルドさんが貴族になっちゃってました!
冒険者ランクA、商人ランクB、
シェンドの町から出た御方でここまでの立身出世は初めてです。というより異常です!
けど、これはこの冒険者ギルド会議で聞いたばかりの新情報。迂闊には喋れません。
「ディックからの入信によると、シェルフへの使いとして祭り上げられたと言っていたが、儂はそう思っておらん」
シェンドの町のギルドマスター、白老ゲミッド様。
マッキリーのギルドマスターも兼任していらっしゃるので余りお姿を見る機会はありません。しかし、かつて冒険者のカミナさんにミケラルドさんとリィたんさんの素行調査を依頼したのはゲミッド様なのです。
評価以上の警戒は勿論の事、ゲミッド様もミケラルドさんの行動に注目しているのでしょう。
「それはどういう事でしょう」
先輩職員の方がゲミッド様に聞くと、ゲミッド様は言いました。
「使いだけならば男爵で十分。しかしブライアン王はミケラルドを子爵とした。これは何らかの裏がある」
「ふむ、確かにその通りです。考えられるとすれば……サマリア
「勿論それもあるだろう。だがそれだけではない」
「というと?」
「ミケラルド最大の武器というと何だ?」
「それは勿論、リーガルのギルドマスターディック様を圧倒する実力、
「貴族なる器がそれだけの武器を持っていた場合、王は何に利用するか……?」
「っ! もしや、他国への牽制!?」
ギルド会議の空気が一瞬凍った瞬間、会議室の扉がけたたましい音を出して開きました。
「大変です!」
「どうした?」
「ディック様より新たな入信! サマリア侯爵家が公爵家となりました!」
「「っ!?」」
皆が驚く中、ゲミッド様は鋭い視線のまま言いました。
「サマリア卿がリーガルの身内となったか……やはりそういう事なのか?」
しかし、それだけではありませんでした。
物凄い足音が近付き、先の報告者を押しのけて別のギルド職員がやって来たのです。
「た、大変です!!」
「今度は何だ!? サマリア公爵家の事ならもう――」
そう言い掛けたところで、ギルド職員は西の方を指差したのです。
「西の山に巨大な建造物が出現しました!」
「何っ!?」
ゲミッド様も……いいえ、私含む全員がその場に立ち上がって驚きを示したのです。
皆が外に出ようと会議室の扉を潜る中、最初にサマリア公爵家の話を報告しに来たギルド職員が何かをボソっと言ったのです。
「何? 今何と言ったっ?」
私に聞こえたのです。ゲミッド様に聞こえないはずがありません。
「ほ、本当だったんだ……」
まるで独り言のようでした。
「おい、どうした!」
ゲミッド様の強い言葉で、そのギルド職員は震える口で言いました。
「ディック様より別件の報告がありました……」
「それは?」
「シェンドの西に、ミナジリ領が配される事になったと」
「ゲミッド様、【ミナジリ】って!」
流石に私も聞いてしまいました。
そう、今会議の最初にあがった名前そのまんまだったからです。
資料にはこうあります。
――――ミケラルド・オード・ミナジリ。
それを思い出した時、ゲミッド様は私の目の端で拳を強く握ったのです。
「忘れていた。やつは……ミケラルドは一瞬にして店を造った魔法の使い手だという事を……!」
新たな建造物の正体。それを、現物を見る前に気付いてしまったのです。
外に出て、野次馬たちを掻き分けながら見える巨大な砦。
堅牢な城とも呼べるあの一帯は、確かにミナジリ領なのでしょう。
大ニュースどころではありません。あれだけの建造物を一瞬で築き上げる魔力量は……
「くっ!」
ゲミッド様が町の西門に向かって走り始めました。
当然私もそれに付いて行きました。遅れながらも、西門から見れば、その詳細がわかるでしょうから。
西門にも、やはり人は集まっていました。
西門の外壁に昇った私は、ようやくゲミッド様に追いつきました。
「はぁはぁ……つ、着きましたぁ……」
外壁上部の
やはりあれは城のようです。見るからに難攻不落という印象です。
「ゲミッド様……どうなさいますか……?」
私はゲミッド様を見ながら聞きました。
何故なら、謎の建造物の調査が必要だと思ったからです。でも、相手はミケラルドさんといえど貴族。領土に口出しする事は
冒険者に依頼して調査させようものなら、リーガル国から抗議があるかもしれないのです。
迂闊に手を出せないこの状況、ゲミッド様なら何か手を考えてくれるはず。
そう思ったのです。しかし、ゲミッド様は私の声など届いていないかのように固まっていました。
そう、ゲミッド様は私とは違う場所を見ながら固まっていたのです。
あの視線は……下?
私の目には、ゲミッド様があの城まで続く平野を見ているだけのように見えました。
しかし、それは違いました。
目を細めゲミッド様の視線の先を追うと、その理由がわかったのです。
「何……あれ……?」
平野の地面を
その真ん中をのらりくらりと歩いている男性が見えます。
まるで散歩。口笛でも吹いているかのような牧歌的な雰囲気。
あれは……あの人こそミケラルドさん。
この道路は、おそらくミナジリ領への道。
これ程まで整然とした道路であれば、人の行き来は格段に良くなるでしょう。
皆、固唾を呑んでミケラルドさんの到着を待っていました。いえ、待つしかなかったのです。
「――……おし、完成っ!」
陽気に言った彼の表情には余裕がありました。
つまり、これだけの事をしながら、彼にはまだ魔力残量があるという事です。
私は外壁から降り、彼を呼びました。
「ミ、ミケラルドさんっ!」
彼は、私を見つけるといつもの笑顔を向けてくれたのです。
そして、先の私の考えでも見透すかのように言ったのです。
「ネム! 丁度良かった!」
「な、なんです……?」
「領土に
調査する必要があると思ってた私の考えが一瞬で馬鹿らしくなりました。
こんな……こんな貴族、見た事がない。
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