その131 会談と会議

「無論、時間は掛かるだろう。子爵とはいえ、下級貴族にも領地が与えられれば領民を守る義務がある。それを怠れば方々から糾弾されるしな」

「それについてはご安心ください。こちらにも考えがございます」

「ふっ、わかっておる。ミックの手際を疑ったりはせぬ。が、ランドルフの子飼い、、、として難癖を付けてくる貴族も多かろう。対応を違えるでないぞ」


 はい、その時は血を吸います。


「領土を明かしたからには、そこへやって来る貴族もいる。忍び込む輩もいる。領民を厳しく責め立てる者もいるだろう。ミックにとっては些細な事であろうが、領民にとってはそうでないかもしれぬ。それを、努々忘れるでないぞ」

「は、はい。ありがとうございます」

「領土の詳しい範囲は追って知らせる。その他質問があればランドルフに聞くといい」


 何とも……意外だったな。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 そんな会談の後、俺はランドルフと一緒に、ゼフが御者を務める馬車に乗っていた。

 馬車の中で、ランドルフが俺に言う。


「考え事かなミック?」

「あ、いえ……陛下のお話がちょっと意外だったもので」

「ふふふ、それは私もだよ」

「え?」

「リーガル国は親政しんせい。陛下ご自身が政治を行う国だ。当然、我ら貴族への仕事を命じるのも陛下だ……がしかし、あそこまでミックに肩入れするとは思わなんだ」

「ですよね。こっちはその内建国するって宣言してる魔族ですよ?」

「当然、ただの厚意という訳ではあるまい。陛下のお考えの中には欲もあろう。だが、欲以上の厚意を……私は感じたがね」


 勿論、それは俺もだ。

 ここまで俺にブライアン王の余力を割く理由は当然あるだろう。


「これまで、リーガル国とリプトゥア国は交易こそすれ剣呑けんのんな状態にあった。しかし、今回の同盟が成り、ミックの国が立国したとなれば話は一変する」

「同盟……リーガル……三国……」


 何気なく言った一言でランドルフは確信した様子で言った。


「っ! そういう事か!」

「どういう事です?」

「当初、陛下がミックの国を推奨するような話をしていたのは、リーガルとシェルフで挟み、魔族ミックを監視する目的だと我々は踏んでいた。しかしそうではなかった」

「大きな後ろ盾と共に、リプトゥア国を牽制する事が出来る……」

「き、気付かなかった! 本当ならばアルフレド公爵家の国家転覆の時に気付くべきだった! あの時動いていたのはアルフレド公爵家だけではない! リプトゥア国も動いていた! こ、これはつまり……――」

「――陛下は押し殺していた。溢れんばかりの怒りを。矛先は当然……リプトゥア国」

「陛下は……リプトゥア国に報復をするつもりだ……!」


 なるほど、やられたらやり返せ。

 当然ではあるが、気の長い壮大な計画だな。

 まぁ、一国を相手に戦うのであれば、この下準備は当然必要なのだろう。

 単純な厚意だけでなくて本当によかった。少し不気味だったからな、ブライアン王のあの優しさは。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「――と、いう訳でミナジリ村が私の領土になりました! いぇい!」

「「いぇい!」」

「いぇい」


 凄い、最後のジェイル以外は皆ノリノリである。

 今回は第三回のミナジリ会議という事で、クロードも慣れたものである。


「今回の問題点は沢山です! もうめっちゃあります!」

「なになにー?」


 ナタリーの聞き方が芝居がかってる。


「領土とはいえ、人の往来が増えます。つまり、どういう事でしょう! はいリィたん!」

「となれば、ナタリーやジェイル、ドゥムガや、新たなダークマーダラーたちは問題になるだろうな」

「素晴らしい!」

「ふっ、当然だ!」

「手配中の人間にまで気を配ってくれれば最高だったよ!」

「ぬ、ぬぅっ!」


 そう、外部の人間の目に触れるという事は、つまりそういう事なのだ。

 建国したならば全て突っぱねられるが、まだ我々はリーガル国民。

 リーガル国民に魔族がいるのは流石にまずい。

 頬を膨らませてむくれるリィたんに、俺は更なる質問を続けた。


「サマリア公爵家はともかく、私より格上の他の貴族がやって来た時これでは非常に困ります。事前通知で来るならいいけど、『様子見に来た』とかで村の様子を覗かれると、情報は一瞬で広がります。こういう場合どうすればいいのかな、リィたん?」

「むぅ……殺してはまずいのだろう?」


 そこまで成長してくれて、おじさん嬉しいよ。ほんと。


「そうだね、結果的に人間と敵対する事になるよ。因みに、【呪縛】を使うのは最終手段だと思ってね」


【チェンジ】で顔を隠すのも出来ればその段階だろう。

 長年付き合った顔を変えるというものは、意外にストレスが溜まる。

 俺でさえ未だに鏡の自分を見て驚くのだから。


「では人の目に触れないようにすればいいのではないか?」

「お、いい線いってるね」

「ふふん! どうだジェイル!」

「見事だな」


 ジェイルも随分とリィたんに慣れてくれた。

 やはり、初期メンバーとの長旅はリィたんに良い影響を与えてくれたようだ。


「でもミック? どうやって皆を隠すの?」

「隔離区画を作るんだよ、ナタリー」

「それって、罪人の人とそうじゃない人を分けるって事?」

「そういう事。それにもう一つ」

「もう一つって?」

「領土を全て囲う」

「……え?」


 一瞬どん引きしたかのようなナタリーの顔が、とても印象的でした。

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