その130 新たなる問題

 ざわつく謁見の間。

 しかしそれは当然の事だ。何たって公爵家が増えるのだから。


「静まれぃ」


 否定的な言葉が生まれそうなその時、ブライアン王が一喝する。

 相変わらずタイミングがいいな、この人。


「この叙位、問題と声をあげる者がいる。当然、余は理解している」


 へぇ、ブライアン王がそんな事言うなんてなんか意外――


「だがそれは、先の一件でランドルフを一瞬でも疑わなかった者のみ許される言葉と知れ」


 怒気の籠もった鋭い視線。

 ――全然意外じゃなかったわ。これだけで皆を黙らせてしまった。

 そう、王が言った「先の一件」とは、あの公爵家の国家転覆計画の話。

 あの時、ランドルフは言った。「陛下のお心だけは……だが、それ以外の者は誰も私の言葉を信じない」と。つまり、王以外の貴族全員が、ランドルフを敵としたのだ。その後ランドルフの潔白が示されようが、疑った事実は変わらない。しかし、王だけは違った。

 しっかりと真実を見ていたのだ。先の一件がある以上、王の目は誰よりも確かである事の証明。同じ判断が出来なかった者に、とやかく言う資格はない。ブライアン王はそう言ってるのだ。

 しかし、この凍り付いた空気をどうすべきか。

 誰か動ける者がいればいいのだが? 冷静な人間はいないものか……ん?

 何故俺を見るんだ、ブライアン王よ。

 俺か? 俺なのか? というかその目怖いからやめてください。

 ……まぁ、仕方ないか。


「おめでとうございます、サマリア卿!」


 俺は謁見の間に響き渡る声でそう言い、拍手を送った。

 この事から、徐々に皆の硬直が解け、苦笑いを作ってからランドルフに拍手を送ったのだった。

 くして、サマリア家は侯爵家改め公爵家となった。

 これにより、リーガル国の貴族界の勢力図が大きく変わるだろう。


「サマリア卿、ミナジリ卿……話がある。後程応接間へ来るがいい」


 ブライアン王が去り際に言った言葉がなければ、俺は早々にミケラルド商店に帰ってたはずなのに。

 まぁ、今日は地下牢にダークマーダラーをぶち込んだし、その説明をしなくちゃいけないから、絶対に帰れないんだけどね。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「いや、助かったぞミナジリ卿!」

「はは……」


 応接間で俺の背中をバシバシ叩くランドルフ君。

 そして、満足顔……というよりしたり顔をしたブライアン王。

 この二人、本当にいいコンビだな。


「さてミック、、、


 王がいきなり愛称で呼んで来たぞ?

 つまり、それだけの好印象を与えたという事。


「な、何でしょう、陛下……?」

其方そなたの真の姿が見たい」


 どうやらこれから悪印象を与える事になりそうだ。

 俺はブライアン王のこの言葉を聞き、ランドルフを見た。すると彼は、自信に満ちた様子でコクリと頷いたのだ。

 なるほど、時は満ちた……という事か。

 観念した俺は、自身に掛けた【チェンジ】を解いていく。


「むぅ……!」


 そして立ち上がり、胸に手を置いて頭を軽く下げた。


「改めましてご挨拶申し上げます。我が名はミケラルド・ヴァンプ・ワラキエル。かの魔族四天王――吸血公爵が一子にございます」

「何と、あの吸血公爵のっ!」


 初出しの情報もあってか、ランドルフの驚きも大きい。

 後々のちのちを考えると、このタイミングで出すなら、こちらの情報も出しておいた方がいいだろう。


「もっとも、私はもう勘当されている身ですが」

「ふっ、予想以上の大物だったな」


 確かにブライアン王は驚いているが、その目に恐怖はなかった。

 流石はこの国の大黒柱である。


「とはいえ、この状態では話しにくいでしょう。元に戻っても?」

「ほぉ、そちらが元ではないのか?」


 ニヤリとジョークをかましてくるあたり、俺への信頼感は変わらないようだ。

 俺はそれに笑みをもって返し、再び人間の姿へと変わる。

 着席した俺を前に、二人は見合って頷く。


「ミック、まず地下牢にいるダークマーダラーについて聞きたい。あやつらをどうするつもりだ?」


 ランドルフもミックに変わってしまったか。まぁ、国王がそう呼んで家臣がそう呼ばなかったら問題だしな。


「彼らはシェルフの民の命を奪った者たちです。既に尋問は終えてますので、後程、領地、、に持ち帰りシェルフに引き渡します。もし、彼らに聞きたい事があれば話は別ですが?」

「陛下、いかがしましょう?」

「構わぬ。奴らの魂胆など目に見えておる。それに、魔界の情報であればミックから得られるからな」


 俺はそこまで情報持ってないけどな。

 行き違いがあると面倒だし、ジェイルの情報だけでも出しておくか。


「魔界の情報を求めているのであれば、後日別の者をお連れします」

「気前がいいではないか?」


 情報の価値を知ってると、そう思うのは当然だよな。


「今後の利益を考えての事ですよ」

「ふむ、いいだろう。一度、リーガルを経由した事は間違いではない。それに、その話は此度の会談の本題とは違うものだ」


 あれ、別の話があったのか。


「ミック、今後についての話をしたい」

「というと?」

「ミナジリ領についてだ。領土こそ与えたが割譲には至っておらん。これを成すにはそれ相応の材料が必要だ」

「割譲させるだけの材料という事ですと、やはり金銭……という事でしょうか?」


 たとえ王が立国を認めたとしても、他の貴族がこれを許す訳がない。

 だから、それらを納得させるだけの多額の金を支払えば、それは叶う。

 言い換えれば、ブライアン王は既に立国に対して前向きであり、動いて差し支えないと言っているのだ。


「リーガル白金貨にして一万枚。それが出来れば小国として十分よ」


 およそ百億円の土地購入代。

 いよいよ、ゴールであり本当のスタート地点が見えてきたな。

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