その129 ただいま、ミナジリ村
「ふぅ、ようやく戻って来られたな……」
久しぶりに感じる我が家の香り。
新築の我が家のテレポートポイントに戻った我々一行。
ナタリーが近くのソファーに飛び込む。
「あぁ~、疲れた~!」
ソファーに顔をグリグリとさせるナタリーに、俺とクロードが見合って笑う。
「はいはい。それはうちに帰ってからでしょう、ナタリー?」
「だってミックの家のソファー気持ちいいんだもーん!」
確かに、誰もいなければ俺だって飛び込みたい程だ。
エメラもちゃんと言っている。「人の家でなければ別にやってもいい」と。
「あ、お給料入ったらこれと同じの買おう! ね、お母さん!」
とても十一歳のお子様が買う代物ではない気がするが、まぁナタリーの給料なら買えるだろう。……ん? そういえばそろそろ給料日か。なら後で給与計算だけでもしておくかな。
そう考えていた俺の目の前をジェイルが通る。自分の顔を指差しながら。
あぁ、元に戻せって事ね。ジェイルの意識に介入し【チェンジ】の発動。ジェイルが人間の姿からリザードマンへ戻る。
一瞬だけ意識を奪われているといえど、随分と発動が早くなったものだ。
そのまま歩いてミナジリ村に向かってしまった程だ。働き者だなぁ、あの人。
「それで、どうするんだミック?」
リィたんが聞く。
「んー、後二日はこっちに籠もってよう。どうせリーガルにはシェルフから連絡がいってるんだから、連絡が届いたその日に帰るのは流石に怪しまれるよ。マックスには悪いけどね」
「何だミック? 俺なんかに気を遣うなよ。はははは!」
事実、目と鼻の先にシェンドの町があり、マックスはそこの警備主任だ。もう帰れるのに帰らない。究極の道草である。シェンドの町の警備隊は、今頃仕事をしているというのにだ。まぁ、つまるところ、今も尚シェンドの町で汗水垂らしている彼らに悪いのだ。
「という訳で、俺からマックスに仕事を出そう」
「うぇ!? 悪いってのはそういう意味かよ!?」
「何言ってるかワカリマセーン」
「にゃろう、覚えとけよ……で、何だよ仕事って?」
「ミナジリの村に行ってさ、警備隊のノウハウを教えて欲しいんだよね。そういうのって俺たち持ってないし」
「はーん、そういう事か。まぁ、それくらいなら構わないぜ」
「それでは私が案内します」
クロードが率先して手を挙げる。
「いいんですか?」
「勿論です。あまりお手伝い出来てませんからね」
「……それならお言葉に甘えます」
「ミケラルドさんはもう少し休んでてください」
「あぁ、それがそうもいかないんですよ」
「はい?」
「これからダンジョンに行って
「こ、これからですか!?」
カミナにテレパシーで聞いたところ、この一週間で在庫がかなり減ったそうだ。
その在庫補充は誰がやるのか。そう、何を隠そう私である。
「なら私も行こう」
「ありがとうリィたん。じゃあ、顔だけちょっと弄ってから行くかー」
ミケラルドたちはまだこの国に戻ってない。そういう工夫も必要である。
ソファーから顔を向けるナタリーがクッションを抱きながら言う。
「働き者だなぁ、ミック」
どこかで聞いた事のある台詞だな。
とりあえず、ミナジリ村には戻って来た。
またいつもの生活が始まる。まぁ、それもこれも、慣れたようにお茶の準備をしているエメラの労いを受けたら……だ。
◇◆◇ ◆◇◆
それから数日の後、俺は再びリーガルの王、ブライアンの前に跪いていた。
「ミケラルド、此度の一件、まこと大義であった。一国の長からあれ程の謝辞を引き出すとは見事と言う他ない」
どれ程の謝辞だったのか気になるところだ。本当に。
「はっ、ありがたき幸せに存じます」
しかしこれでミナジリ村の自治権を得られるはず。そうすれば、いよいよ俺も本格的に動けるだろう。
まぁ、それもこれもシェルフとの同盟が成ってからだ。
貴族たちのささやかな拍手が止むも、やはり快く思ってない者もいるようで、笑顔はぎこちない。
「
おっと、これに対する報酬がミナジリ村の領地か。
だが、これはまだ国としては認められていないもの。おそらく割譲の前段階というところか。
「有り難く拝領致します……!」
「うむ。次、ランドルフ、前へ」
「はっ!」
おや? サマリア侯爵も何かあるのだろうか。
「ランドルフ・オード・サマリア、其方は此度の一件ならず、これまで数々の功績をあげた。当然、それは皆も知っての通りだ。国家が傾こうという時も、余を支え、助けてくれた」
「過分なお言葉にございます」
「特に、この数ヶ月の活躍は目覚ましい。野に埋もれる才を見出し、富国の道を示し、更にはシェルフとの友好を築いた」
なるほど、つまり俺の功績はランドルフの功績でもあるのか。
確かにそうだよな。ブライアン王に俺を紹介したのはランドルフだし、その俺が国益になる事を色々やったとしたら、ランドルフの目と才覚は褒賞として十分な功績をあげている。
「よってその功績を称え、ランドルフ・オード・サマリアに公爵の位を
……これはおったまげた。
元来、公爵の位とは王の血縁者で構成される。
サマリア侯爵家には王家の血はない。それでもブライアン王はランドルフに公爵の爵位を与えた。これはちょっとした……大事件ではないか?
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