その103 接触
輝くブロンド。青い瞳に透き通るような白い肌。
ダイモンが惚ける程のボンキュボン。
胸元がはだけたイケない衣装。
「……イイ」
「とても娘が心配な父親の台詞とは思えないな」
俺が言うと、ダイモンは大きく
そして、俺から視線を外しながらダイモンは言った。
「し、しかしそんな事まで出来るんすね……旦那は」
どうやらダイモンの中で、俺の「旦那」呼びは定着してしまったらしい。
「どう思う?」
「正直……恐ろしいっす」
「まぁそうだろうね」
「でも……頼りにしてもいいんすよね?」
「なんたって村長だからな」
そう言うと、ダイモンは強く拳を握った後、すんと息を吐いた。
「なら……俺は付いて行きますよ!」
「それは、コリンが戻ってから決めるんだ」
「……はい!」
俺の言葉を受け、ダイモンは強く、そして静かに返事をした。
首都リプトゥアのテレポートポイントに着いた俺は、【チェンジ】を使い、誰もが振りかえるような美女に変身した。
「それで、どうやって釣るつもりなんすか?」
「とりあえず散歩して、人目に触れる」
「俺は何を?」
「尾行者を確認したら俺からテレパシーを送る。ダイモンはソイツを尾行するように」
「はい!」
「焦らないようにね。冷静さを欠いたらコリンは戻らないと思った方がいい」
「わかりやした!」
気持ちの良い返事を受けた俺は、【闇空間】の魔法を使い、中から大きめの服を取り出した。
「あ、これダイモンの身体に合いそうな服ね。流石に主人がいない状態で奴隷服着た人間が城下を歩いてたら目立つし」
「じゅ、準備がいいすね……」
ダイモンの驚きも当然か。
しかし、このカラクリは簡単だ。
クロードにテレパシーでコンタクトをとり、首都リーガルの服飾店で買ったこの服を、皆の共通闇空間に入れただけである。
それを俺が取り出し、ダイモンに渡す。正にこれは、世界の流通をぶっ壊す究極の共通倉庫魔法という訳だ。
空き家から出た俺は、首都リプトゥアの人通りの多い道に出た。
ダイモンも大通りで俺の指示を待っている。
道行く人という人が俺を見て振りかえる。それだけの視線を受けつつも、その中にある強い
好意などではない、黒く染まった悪意に満ちた視線を。
『食いついたっぽいね』
『っ! 旦那! どこですかっ!?』
『赤い屋根の織物店。そこにいる白いターバンの男性客』
『……見えました!』
『これから宿をとる。俺の
『へい!』
所謂、二重尾行というやつだ。
【探知】や【嗅覚】を使えば俺一人でも可能だが、ダイモンの協力はあった方がいい。いや、なければ俺はダイモンの手綱を握れないだろう。何故なら相手は子を思う親。俺が止めても必ず付いて来る。
ならば、最初から協力してもらった方が確実だ。
宿に入った俺は、店主の好意という名の厚意により格安で部屋をとる事が出来た。
角部屋で、この宿の中では上質な部屋と言えるだろう。中にある調度品がそれを物語ってる。美人って本当に凄いと思う。
さて……そろそろか。
『確認しやした!』
テレパシーをずっと発動している辛さはあったものの、どうやら撒かれる事も、尾行がバレる事もなかったようだ。
【超感覚】と【嗅覚】さえあればここまでわかるというのは喜べばいいのか、化け物じみてきた自分を嘆けばいいのか……。
『よし、空き家で待機してて』
『だ、旦那は大丈夫なんで……?』
『問題ない。動きがあったら知らせるから出来るだけ休んでおく事』
陽が沈み、町に灯りが必要となり、夜は深くなっていく。
部屋から灯りを消し、しんと静まりかえった宿に四つの反応。
チェックしていた反応が徐々に強くなる。足音を立てず部屋に向かって来る反応。
部屋の鍵は当然かけてある。防犯や自衛のためではない。普通を装うためだ。
扉から聞こえてくる金属と金属がこすれる音。
こんな世界だ。技術があれば宿の鍵くらいものの数秒で開けられるだろう。
ベッドの膨らみに近付くのは三人。もう一人は入口で見張り……か。
ならば、先に見張りから対処すべきだろう。
天井からぶら下がった俺は、見張りの口を閉じ持ち上げる。
そして、瞬時に血を吸って【呪縛】を発動。
『扉を閉めて鍵をかけろ』
見張りから味方に変わった男は、俺の指示に従い扉を静かに閉め鍵をかけた。
次の瞬間、最後尾のターバン男がその異常に気付いた。
布団をめくった屈強な男二人も、ベッドに誰もいない事に気付く。
だが、それは全てが終わった知らせ。
何故なら、彼らの今晩の記憶はここで途切れるからだ。
◇◆◇ ◆◇◆
「ふぅ」
「旦那!」
変身を解きテレポートを使ってテレポートポイントのある空き家に戻った俺は、ダイモンに迎えられる。因みに着替え済みである。
「ほいほいほいのほいっと」
【闇空間】から男たちを取り出すと、ダイモンが感嘆の声を出す。
「す、凄い……」
だが、次の瞬間、ダイモンはそれ以上に物凄い事を言ったのだ。
「じゃあこれから拷問っすね!!」
え、何それ怖い。
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