その102 コリンの行方

 ダイモンが集めた情報によるとダイモンの娘であるコリンは、ダイモンが奴隷となった後、たちの悪い奴隷商に捕まったそうだ。

 その話を聞いた俺は、まずはと思いテレポートポイントを使い、皆を首都リプトゥアからミナジリの村へ移動させた。シュッツとランド、そしてジェイルに後の事を任せ、ドルルンドの町に移動して待っていたダイモンと共に、先程奴隷を大量購入した奴隷商店へと向かった。当然、俺は彼等にとってお得意様である。

 俺の顔を見つけて悪い顔をする者はいないだろう。

 店の前を掃除する奴隷を監督する奴隷商に近付くと、すぐに気付かれる。


「おや旦那! もうお戻りで? 流石に新しい奴隷はいねぇですぜ? はははは!」


 奴隷商に肉薄しようとするダイモンを腕で御し、俺は静かに一礼した。


「実は、とある奴隷商を探しています」

「ほぉ?」


 俺の希望を聞くと同時、奴隷商は嫌らしい笑みを浮かべながら言った。

 同じ商人として見習うべき部分はあるが、それが相手にわかっては意味がない。

 まぁ、今回に関しては彼の打算に乗る他ないだろうけどね。


「首都リプトゥアで子供をさらって奴隷にする奴隷商について聞きたいのです」


 瞬間、奴隷商の瞳に動きがあったのを、俺は見逃さなかった。

 心当たりが頭を過ぎったのだろう。しかし、奴隷商すぐに目を伏せ、更には背を向けたのだ。


「……知らねぇな」


 なるほど、これだけの上客が相手でも答えを渋る相手……という事か。


「おい! 何か知ってるんだろ、お前!? 頼む! 教えてくれ!」


 我慢が出来なくなったか、ダイモンはついに口を出した。

 その気持ちはわかる。実の娘の行方を知っているかもしれない男から情報が引き出せないのだ。焦る気持ちはわかるのだが、ダイモンの怒声を受けても彼は反応を見せなかった。


「っ! おいっ!」


 ついには奴隷商に掴みかかろうとするダイモン。

 しかし、俺は腕で彼を制した。


「ダイモンさん、落ち着いてください」

「これが落ち着いてられる――――」


 と言い掛けた直後、俺は彼の意識を奪った。奪うしかなかったというのが正解だ。

 催眠ガスを吸わせると、ダイモンはほんの少し朦朧もうろうとした後、俺の肩に倒れこんだ。


「へっ、すげぇ腕だな……アンタ。がしかし、ちゃんと契約してりゃ、その奴隷も言うこときいたってのによ。どうしてそんなに回りくどい事をする?」

「はははは、そう見えましたか? 大丈夫、ちゃんと彼はわかってくれますよ」

「どうだかねぇ……」


 奴隷商から情報を聞き出す。

 彼から血を吸って得てもいいが、それは最後の手段にしておきたい。

 ならば、ここは彼が信用するモノで【交渉】した方がいい。


くだんの奴隷商の情報……リーガル白金貨はっきんか一枚でいかがです?」


 先の嫌らしい目付き。当然、それは情報を売ろうと画策した目である。

 しかし、その情報が彼の手に余るモノだとしたら、顔をそらしてしかるべき。

 ならば情報の価格を法外なものにすればどうなるか。


「……今夜、十一時に裏に来てくんな」


 なるほど、【交渉】の能力も相まって、彼を振りかえらせるだけの力はあったか。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 夜、ダイモンが目覚める。

 ダイモンは俺が情報を買えそうだと言った瞬間、先の無礼をすぐに詫びた。


「……すまねぇ」

「冷静になれとは言いません。こんな事があれば誰だって頭に血が上るでしょう」


 そう、俺だって過去血塗れのナタリーを見て冷静じゃいられなかった。

 寧ろ、自我があっただけダイモンはマシな方だ。

 簡単な食事を済ませた後、俺たちは先の奴隷商店の裏へ向かう。

 約束の時間の五分前。

 すると、そこには男の奴隷が立っていた。


「ミケラルドさんですね」

「……彼は?」


 聞くと、男はそれきり無言のまま俺に一枚の小さな羊皮紙を差し出した。

 なるほど、情報は彼の奴隷経由で渡すという事か。

 俺は白金貨を男の奴隷に渡し、その羊皮紙を受け取る。

 俺とダイモンがそれをのぞき込むと、俺は驚きに、そしてダイモンの顔は恐怖に染まった。


「私の目の前でそれを燃やして頂けますか?」

「えぇ、彼には感謝をお伝えください」


 俺はそれを火魔法で燃やし、消し炭にする事で彼の情報をこの世から消した。

 俺の火魔法に驚いた男奴隷は、出しかけていた後始末の道具をしまい、静かに闇夜に消えていった。

 この場で話す事ははばかられる。そう判断した俺は、ダイモンに一時帰宅を身振りで説明し、ドルルンドの空き家へ戻った。

 緊張と恐怖をあらわにしたダイモンは、空き家の出入り口で硬直したままだ。

 それも当然だろう。

 俺は、あの時受け取った羊皮紙の中身を思い出す。


 奴隷商の名前は《コバック》。

 首都リプトゥアで裏奴隷商を営む危険な男。

 何故危険かは、あの奴隷商が注意書きで教えてくれた。


 ……なるほど、魔族、、と関わりがある奴隷商か。

 そりゃ怖がる訳だ。


「ミ、ミケラルドの旦那……」


 いつから俺は旦那になったのかはわからないが、別にこの呼ばれ方は悪い気はしない。

 ダイモンはすがるような視線を俺に向け言うも、その先に続く言葉は聞こえない。魔族という言葉だけで、彼は悟ってしまうのだ。「もう無理だ」と。

 それだけ人間には魔族という存在は恐ろしいものなのだ。

 だがしかし、忘れてはいまいか? このミケラルド君も魔族だという事を。


「まずは接触からですね」

「で、でも一体どうやって……!」

「とりあえず絶世の美女になります」

「…………は?」

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