その90 国王の特殊能力
発言を許されていない現状、相手の情報を探るならば……【鑑定】しかないか。
……なるほど。ブライアン王には【魅了】なる特殊能力が備わっている。
今しがた見た吸い込まれそうな瞳は、この能力を使っていたからか。
「
【鑑定】の発動に気付いたか。
それに気付いてても尚、気にしないというのならば、ここはやはり非公式の場なのだろう。
「構わぬ、双方楽にせい」
そう言われてやっと、俺とランドルフはその場から立ち上がった。
「陛下、お戯れを」
ランドルフが目を伏せながらそう言った。
【魅了】の特殊能力はおそらく呪縛の下位互換。視線を外す事が出来る分、確実性を欠く能力だし、威力もそこまで高くなさそうだ。だが、家臣や他の貴族を操るならば悪い能力ではない。
それに、血を吸うのと違って、視線を合わせるだけで操れるのは悪くない能力だ。
ランドルフが操られている様子はないから、きっとわがまま貴族専用だろうな。
俺に使ったのもおそらくある程度の実力試しといったところだろう。なるほど、悪くない王だ。
「其方、名前は何と申す?」
「ミケラルドと申します」
俺を
「緊張……いや、場に慣れておらぬか」
やはりバレたか。
「不作法申し訳ありません」
「構わぬ。どうせ非公式の場よ。さてランドルフ、今日はどういった用件だったかな?」
「新たな
「ミケラルド商店……か」
何だか意味深な言い方だな。
「良い買い物をさせてもらってる」
「へ?」
「ウォーターの魔法は早速購入させてもらった。予備に
「あ、ありがとうございます」
そうか、俺の店にブライアン王の配下が買いに来てたのか。いや、もしかしたら冒険者ギルドに依頼していたのかもしれない。まぁ前者が適当かもしれないな。冒険者ギルドと王家はあまり
しかし、これを予想していなかった訳ではない。
考えてみれば隣国のリプトゥア国からも購入者はいるし、国王が買っておかしいものでもない。そもそもの金額が金額だしな。税金で食ってるとはいえ、国王も金持ちの一人である事に変わりは無い。
「それに、毎週の新聞も楽しみにしている」
「うぇ? 読まれていたのですか?」
「其方がクロードでない事は明白だな」
性格を見透かされた気分だ。
がしかし、ブライアン王もクロードの存在が気になるか。
まぁ、これは皆にクロードの名前を覚えてもらうための作戦でもあるけどな。
いざクロードがシェンドの町の店番でもする日がくれば、皆「エルフだ!」という驚きと共に、「あのクロードだ!」と意識する。普通のエルフが働くよりかは受け入れられるだろう。それがどれ程の違いであっても、差がある事は明白だ。
「謎のエルフを利用した作戦を考えたのは其方か?」
「はい」
やはり国王クラスになるとどういう意図でやってるのかわかるか。
ドマークとランドルフが俺の事報告してたのも勿論あるけどな。
「実に面白い作戦だ。城内でもエルフの話題が出る程にはエルフの差別意識は薄らいできている。が、しかしだ――」
「――はい」
「それもここらが打ち止めだろう。次なる手はどうする?」
俺は一度ランドルフを見る。
ランドルフが頷く。今回の希望をブライアン王に直接伝えろという事か。
「クロードを使います」
「ほぉ? いや、待て? ……ふふふ、そうか。なるほど、クロードはエルフか」
「謎のエルフとは別人である、とだけ」
「そうか、面白い引き出しを持っているな」
「それに伴い、陛下には一つお願いがございます」
「申せ」
「クロードという個を、国家として認めて頂きたく存じます」
「エルフの話題に耳を慣れさせ、今度は目……という事か」
「ご慧眼恐れ入ります」
するとブライアン王は自身の顎を揉み始めた。何かを考えている様子。
「其方、ミケラルドといったな?」
「はい」
「ランドルフから聞き及んだが、ミケラルドは亜人を奨励する国家を目指すべきだと申したそうだな」
言うのが早いよランドルフちゃん。
「……はい」
「何が狙いだ?」
「差別意識の緩和です」
「それをする事で何の利益が?」
「他国と交易するだけでその利益は計り知れないはず。ならば多種族と交流、交易する事で得られる利益は? と考えた時、その比ではないと結論に至ったまでです」
「利益のみか?」
まだ狙いがある事に気付くか。
「いえ」
「……固くなるな、申せ」
「断言は出来ませんが……心の貧富の緩和にも繋がると思ってます」
「ほぉ? 余の民の心が貧しいと?」
ちょっとピリっとした空気になったな。
ランドルフが目を合わせてくれなくなったぞ。
しょうがない。腹を括るしかないか。
「……リーガル国だけではありません。それは大半の人間に当てはまる事かと存じます」
エルフだけじゃない。これは魔族との共存も視野に入れた人間の意識改革。
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