その91 良き友として
ほんの少しの沈黙の後、ブライアン王が俺に聞いた事はかなり核心に迫っていた。
「……ミケラルドがそこまで申す理由。その根底にあるのは何か?」
これは……もしかして俺が魔族だと気付いている?
ランドルフが話したという事? いや、ただ単純に聞いているだけなのか?
ランドルフにテレパシーで聞いてもいいが、ここでランドルフに手札を見せたくないのも事実。
……仕方がない。手元にある手札だけで戦うしかないか。
「有効な力の使い道を考え続けた結果、でしょうか」
「ほぉ」
「目的がなんであれ、出来る力を持っているならば、ソレを行使しないのは弱者への怠慢だと思っています」
「傲慢……ともとれるが?」
ならば、ちょっと傲慢にいってみるか。
「そうとれるのは、陛下が力を持っている証拠です。本当の弱者は傲慢とはとりません。……いえ、傲慢という言葉すら知らないかもしれません」
「……なるほど、一理ある」
「私は、それを陛下に一端といえど見せる事が出来たと思っています」
「ふふふ、先のアルフレドの一件を出されるとこちらも弱くなるな」
アルフレド事件の真相について書かれた二通の手紙。
これをブライアン王の寝所に置いたのは俺だ。それが誰なのかは、もうブライアン王も俺だと知っているはず。むしろ、この笑顔を見るに、まるで「知っているぞ」と俺に伝えたかったようにすら思える。
「必要なのだろうな。そういった意識改革が」
「はい」
「先にも述べたが、謎のエルフの一件、余の耳にも届いている。こうも上手く民を誘導するとは見事だ。クロードを国家として認めるのは問題ないと言っておこう。明日にも公布しようじゃないか」
おぉ、なんかスムーズに話が進んだぞ?
「元々シェルフの商人を招くための策を、余がランドルフに任せたのだ。その手助けをするだけ。他の者も納得する」
「ありがとうございます」
「だが、シェンドの町の西の自治権とはまた話が別」
「っ!?」
にゃろう、ランドルフめ。
ゆっくり話を進めたいと思ってたのに、もう話してたのか。
いや、ランドルフの事だ。ブライアン王に話して問題ないと判断したからこそなのか?
どんな判断にせよ、一言くらい相談があってもよかったのに。
「ふっ、あまりランドルフを睨んでやるな。ランドルフが口を割ってない部分もあるのだぞ?」
「っ!」
これはおそらく俺の正体。
が、この人の事だ。薄々気付いているんだろうな。
「確かにあの地は我がリーガルの土地。そこに集落を築こうが好きにするがいい。どこの野盗もやっている事だ。しかし、自治権ともなると話は別だ。住みにくき山々だったとしても我が地。そう易々と
易々と、と今言ったな。
つまり、この後ブライアン王から出てくる内容は……何らかの条件。
「陛下は何がお望みなのでしょう?」
「無論、シェルフとの同盟よ」
「っ!?」
「此度の一件が国内で落ち着いた頃で構わぬ。ミケラルド、其方はシェルフに
「…………かしこまりました」
◇◆◇ ◆◇◆
「な、なぁミケラルド殿? そろそろ口を開いたらどうだ? ん?」
「……性急過ぎると思いましたよ?」
「え、笑顔なのに目が笑っておらぬな。ははははは…………すまん! ミケラルド殿っ!」
「はぁ……まぁ、悪い方向に転がってないと思いましょう」
俺とランドルフはサマリア侯爵家の別宅に戻っていた。
寝間着の王様はあの会話の後、すぐに消え、俺は屋敷に戻ってくるまで無口を貫き通した。
ランドルフの申し訳なさそうな顔を見られただけめっけもんかとも思うが、正直、してやられた感が強い。
「……ミケラルド殿は、陛下の狙いにも気付いているのだろうな」
ランドルフは声を落とし、ジッと俺を見てきた。
流石はブライアン王の懐刀だ。そういう策略も見えているのか。
今更だが、俺はもの凄い人と知り合いになったんだな。
「えぇ、割譲の条件にシェルフとの同盟。なるほど、上手く考えられた策です。同盟が成った時、陛下は我らが土地を割譲くださるでしょう。シェルフとリーガルに挟まれたあの土地を」
「シェルフはミケラルド殿が住まう地の更に西。そことリーガルが同盟を組めば、ミケラルド殿が
威厳こそ感じられなかったが、伊達に国王を長くやってないって事だな。
「ところで、この一件が終わったら陛下は必要な身分を用意すると仰ってましたが、あれは一体どういうおつもりなのでしょう?」
この一件とはつまり、シェルフの商人団体がウチへ買い物に来る事を指し、その団体が満足して自国へ帰った後の事。
「む、シェルフへの使者として相応しい身分……ともなれば、男爵位か子爵位ではなかろうか?」
「は?」
「この一件が終われば、ミケラルド殿は貴族になるという事だな」
そういう事か。
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