その59 ミケラルド商店二号店

「え、えっと一次産品って、どういうモノを指すんです?」

「主に素材が多いですね。木材や石材。果物などの食材もそれに該当します」

「つまり、加工した物品の取引は、ランクを上げなければ出来ないと?」

「左様でございます」

「商人ギルドのランクってどうすれば上がるんですか?」

「主に商売で儲けた金額で上がります。それはミケラルドさんのギルドカードが自動的に計算してくれます」


 そういった魔法が掛けられているのか? もしくはそういうマジックアイテムなのか?

 まぁ悪い話ではない。しかし予定が狂ってしまった。

 さて、どうしたものか?


「まず出店して、最初は一次産品。その過程で得た収入により、ランクも上げられるって認識でいいですか?」

「はい、その認識で結構です」

「じゃあとりあえず出店をしちゃいます」

「では別室に案内しますので、店舗の購入、もしくは賃貸契約。そして出品――つまり店舗に並べる商品の登録をお願い致します。登録外の商品を売買した場合、罰則もございますのでご注意ください」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 という感じで、俺はランクGのままマッキリーの町からシェンドの町に戻り、出店をする事にした。マッキリーの町にもシェンドの町の物件があったのは好都合だった。

 賃貸というのも考えた。しかし、少々お高めだが、優良物件があったため、購入する事にした。


「あれ? 何されてるんですか? ミケラルドさん?」


 俺に声を掛けたのは、シェンドの冒険者ギルドのギルド員、ネムだった。


「ギルド、入らないんですか?」


 ネムがギルドを指差して言う。

 しかし、俺が向いているのはその反対側だった。


「そこは長い事空き地になってる場所ですよ? じーっと見つめてどうしたんです?」


 そう、俺が購入したのは土地のみ。

 優良物件という理由は、冒険者ギルドの前という好立地だから。

 たとえそこが空き地でも、露天くらいは出来る。商人ギルドの人間はそう思った事だろう。

 しかし、俺には土塊つちくれ操作という土魔法がある。

 これを使わずして何を使うというのだ、という話だ。

 幸い、ジェイルたちが山から切り出した岩も土も木も闇空間の中に入っている。

 つまり俺は、この場で店を造ろうとしているのだ。

 そしてこれは、良い宣伝にもなる。

 ランクAの冒険者が大々的に魔法を使い、瞬く間に店を造るという大きな宣伝が出来る。

 ネムがぽかんと口を開け、着実に出来上がる店舗を見上げている。

 店は二階建て。二階は主に寝床だが、一階の店舗は広く大きくしよう。幸い土地は正面のシェンドの冒険者ギルド並みに大きい。これからいくらでも増築出来る。一階の店舗奥は倉庫にしよう。店舗の壁に窪みを均一に作り、闇空間から取り出した木材は、冒険者ランクA以上の肉体を使えば、あっという間に窪みにはめ込む棚と化す。同じ要領でカウンターを作り、カウンター横に階段。階段の手すり。カウンター裏から倉庫に通じるドア。店の出入り口は観音開きのドア。そして最後に、表のそのドアの上に、大きな看板にこう刻むのだ。

 ――ミケラルド商店二号店と。

 ものの数十分で出来た店の前には、無数のギャラリーが出来上がっていた。


「ミ、ミケラルドさんっ!? も、もしかして商人になられたんですかっ!?」


 というネムの驚きも計算済みである。


「い、いえ! 今の何ですか!? 魔法が使えたんですか!? 闇魔法は知っていましたが今のは土魔法も使っていらっしゃいましたよね!?」


 という無数の突っ込みも計算済みである。


「うん」


 俺はこれだけでネムとの会話を終わらせた。


「う、うんじゃないですぅ!」


 むくれるネムがとても可愛いが、俺にはまだやるべき事があるのだ。

 流石にそれを放置してはおけない。

 俺は闇空間内から小さな木材を取り出し、そこに売買する商品を刻んでいった。

 当然、それは【木材】の文字しか書かれていない。

 今現在俺が持っている一次産品は、これしかないのだから。

 俺が持っている付与エンチャントは、商人ランクDから。修理リペアは商人ランクBからしか使って商売する事が出来ない。

 ダンジョンで稼いだマジックアイテムはランクCから、盗賊たちから巻き上げた盗品はランクEからしか扱えない。


「ハハハハハ! あれだけ派手にやって木材しか売ってないのか! 馬鹿なんじゃないか、コイツ!」

「はん! 魔法が使えるからって商人が出来ると思ったら大間違いだぜ!」


 と言う暴言は、野次馬の中から聞こえてきた。

 当然馬鹿にされる事も想定していたので、俺は痛くも痒くもなかった。

 何故なら、俺には壮大な計画があるのだから。

 俺が扱えるのは一次産品。ならば、一次産品に該当し、尚且つ高値で売れるモノを仕入れればいい訳だ。

 とりあえず今日はここまで。

 しかし、明日はきっと凄いぞ。

 何故なら、マッキリーの町にあるダンジョンの最下層のあの二つの貴重品は、一次産品だって話だからな。

 あぁ、早く明日にならないものか。

 そう思いながら俺はカウンターに腰掛けるのだった。

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