その58 商人ギルドの罠
「ミック、それならこっちと交換しようよ!」
「いや、目の色変わりすぎだぞ、ナタリー?」
渡した金貨と、今見せた白金貨の交換を熱望するナタリーの頭に、こつんと手刀突っ込みを入れる。
「へへへ~、じゃあ一枚だけっ」
「可愛く言ってもダメっ」
俺がそう言うと、ナタリーは嬉しそうに頭を押さえた。
最近ナタリーとのスキンシップもなかったし、これは良い事なのだろう。
「しかしミケラルドさん。これ程の大金、一体何に使われるのですか?」
「えぇ、聞いた時は驚きましたが、その武器も……その、飾りなのでしょう?」
クロードとエメラの質問。
俺はその革袋を握り、二人を見た。
「実は、遂に商人ギルドに入ったんですよ。これを元手に、大きな商売をしようと思ってます」
「そういう事でしたか。ならばそれくらいの元手は必要でしょう」
クロードは納得した様子で言った。
「商売はシェンドの町で?」
「えぇ、シェンドの町にミケラルド商店の
「「二号店?」」
クロード夫妻は、その数字に疑問に思ったようだ。
しかし、ナタリーは気付いていたようだ。嬉々とした顔で、両親に言ったのだ。
「パパ、ママ、一号店は、あそこだよ!」
ナタリーの言う「あそこ」がどこなのかは、二人もすぐに気付いたようだった。
そう、現在開拓中のあの地に、ミケラルド商店一号店を建設するのだ。
といっても、メインで商売するのは、しばらくシェンドの町の二号店になるだろう。
しかし、一号店の場所だけは譲れないのだ。
「でも、そろそろあそこも名前が欲しいですね」
「あ、いいですねエメラさん!」
「ん~、何がいいかな!?」
まるで秘密基地を作っているような高揚感。そんな和気藹々な雰囲気の中、ジェイルが戻って来た。
「ミック、やはり戻って来ていたか」
「あれ、ジェイルさん。気付いたんですか?」
「最近ミックの魔力が強くなっているからな。この家に戻っているなら、あの場所にいてもわかるくらいだぞ。流石魔族四天王の息子だ」
へぇ、気付いていなかったけど、ちゃんと成長してるんだな。
【魔法】、【特殊能力】、【固有能力】、【技】だけ増えてるのかなとも思っていたが、ジェイルが認める程なのであれば、それは相当なのだろう。
「ども」
「本当の事を言ったまでだ」
「今、四人であの場所の話してたんですけど、ジェイルさん、あそこ何て呼んでます?」
「……そういう事か。いや、決まった名前はない。あの山にも元々名前はなかったそうだしな」
やはり、現場での呼称もないか。
それならここで決めてしまうのがいいな。
「とりあえず皆の頭文字を入れる感じで。ミジリナエク……?」
「難しそうな名前ですね」
クロードの的確な突っ込みに感謝したい。
その後、全員の名前を入れるのは難しいという判断になり、クロード一家からは代表としてナタリーの名前が挙がった。
確かに、思えばこの四人が初期メンバーと言っても過言じゃないからな。
「ミナジリ村」
「ミナジリ村」
「ミナジリ村」
俺とナタリー、そしてジェイルが口々に同じ名前を呟く。
まぁ、頭文字を揃えたらこうなるよな。というか他がしっくり来なさ過ぎる。
「思うんだけどさ」
「なぁに、ミック?」
「ミナジリ村だといいけど、ミナジリ町になった瞬間、違和感出ないか?」
「その時はまた考えればいいじゃないか」
ジェイルの軽さがとても小気味良い。
「まぁ、ミナジリ村は田舎って感じがして悪くないか」
「うん、私は好きだよ、ミナジリ村」
「明日看板を立てよう」
二人は二人とも違った同意を示し。
それを見ていたクロード夫妻が微笑む。
「どうやら、決まったようですね」
「えぇ、まだまだ小さなミナジリ村ですが、これからどんどん大きくしたいと思います!」
「がんばろー! おー!」
「「おー!」」
ナタリーの
ジェイルだけは少しだけ恥ずかしがっていたが、それもとても面白かった。
この件は、後でテレパシーを使ってリィたんにも伝えておこう。そうしないと絶対に拗ねるからな。
◇◆◇ ◆◇◆
翌日、俺はマッキリーの町の商人ギルドにやって来た。
出店する際の諸注意を聞くためでもあり、出店方法についても聞きたかったからである。
「おはようございます」
「おはようございます。依頼でしょうか? 売買でしょうか?」
冒険者ギルドならまだしも、俺は商人ギルドの
まぁ、それも一時だろうけどな。
「すみません、これを」
商人ギルドに加入した時に受け取ったギルドカードを提示する。
「失礼しました。商人ギルドの方でしたか。どういったご用件でしょう?」
「シェンドの町に出店したいのですが、どうすればいいでしょう?」
「かしこまりました。商人ランクによっては取り扱い品が限定されます。ミケラルドさんは……ランクGなので一次産品のみの取り扱いしか出来ませんがよろしいでしょうか?」
…………全然よろしくないです。
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