5 ロリコン、男根に囲まれる
変態女刀鍛冶の小屋の中に入ると、僕はまず壁面にずらりと並べられた剣の数々に目を奪われた。
「素敵でしょう。全部私が鍛えた剣なのよ」
「へえ……それは凄いですね」
確かに『ディアボリバー』ほどではないものの、そこに飾られていた剣はそこらの量産品とは明らかに違う輝きを放っていた。
剣の目利きはシロウトの、この僕でも分かるほどだ。
この女にアインを任せるつもりはないが、その腕前は認めよう。
恐るべき力を秘めた魔剣を作り出す刀鍛冶というのは、要するにこういう人間なのかもしれない。
(でもご主人様の強さとロリコンには関連性が見られないけど、それはどういうことなんだろう?)
またアインの声が聞こえた気がしたけど、ただの幻聴だと思うので聞き流す。
「さて、そこに座って。この地方特産の美味しいお茶を持ってくるから」
「ありがとうございます、ええと……」
「そういえば名乗ってなかったわね。私の名前はエリナ=アリテージ。森に籠もって刀を打つ、しがないただの刀鍛冶よ」
そう言って、エリナは奥の部屋へ姿を消した。
さばさばしていて飾らないので、見る人が見れば素敵な女性に見えることだろう。
だがあの
まあ、僕にとっては彼女がどうあれババア以外の何者でもないんだけど。
見たか、あの汚らしくて下品な肉の塊を。
胸は慎みもなく無闇に膨らんで、ぶよぶよに肥えた豚のよう。そのくせそれ以外の部位には微妙に筋肉がついているから、アンバランスなことこの上ない。どこをさわってもぷにぷにふっくら柔らかな、アインの完成された肢体とは大違いだ。
背丈が高いのも、伸びすぎたタケノコみたいな得も言われぬ気持ち悪さがある。女の身長は、どれだけ伸びても140cmを超えないように国が管理すべきだと思う。
肌もアインのあのつやつやで美しいシルクのような肌とは比べものにならない。鍛冶焼けしてガサガサになって、まるですり切れた雑巾のようだ。
もし僕が『ディアボリバー』で人を殺していれば、アインもあんな惨めで汚らわしい存在になりはてていたというのだろうか?
想像するだけで寒気がする。
やはりアインのことは、僕の命が尽きるまで守り続けなければならない。
(あのさご主人様、そういう強い思いは私の方にも伝わってくるから、気味の悪い呪いを黙々と唱えるの本当に勘弁して)
……どうやら僕の心の声が、アインに通じていたらしい。
そういえば前々からそんな節があった。
(一応契約を結んでいるからね……距離が離れていても、心は無駄に繋がっちゃうんだよ……)
それなら、今のように偶にアインの声が僕に聞こえてくるのも同じような原理なんだろうか。
しばらくすると、エリナが部屋に戻ってきた。
「お待たせしたわね! お茶を入れてきたわ!」
……つんと匂い立つ不気味なお茶を携えながら。
「さあ、飲んで!」
目の前に叩きつけられたそのお茶は、木彫りの茶碗に入れられていたが……対して湯気も立っていないのに、ぶくぶくと謎の泡立ちを見せていた。
どう見ても毒だ。というか色が紫色な時点で、少なくとも茶じゃない。
「え、ええと……エリナさんは飲まないんですか」
「私はもう飲んだから気にしないで」
来客に茶を出すのに自分だけ先に飲む奴がどこにいる。絶対嘘だ。
「あ、あの、この色……」
「この地方のお茶はそういう色なのよ」
どの地方のお茶でもこんな色はしていないと思う。
「そ、そうなんですか……では、後でゆっくりいただくとして、まずは里の場所を……」
「飲んで?」
「……あ、あはは……なんだかあんまり喉が渇いていないみたいなので、後から……」
「飲まないと、里の場所は教えないわよ」
……このお茶が普通のお茶なら、そうまでする理由がない。
駄目だ、八方ふさがりだ。
僕は戦うとなればそこらの連中に負ける気はしないが、別に毒に強い体を持っているわけではない。
神経毒など飲まされようものならアインを確実に奪われてしまうし、場合によっては即死毒を仕込んできたりするかもしれない。
ここは山奥、僕は旅人。盗賊のようなアウトローでなくとも、官憲に見つからず殺しをする方法はいくらでもあるのだ。
「すみません。急用を思い出したので帰らせていただきます。お茶、ごちそうさまでし――――」
僕が立ち上がろうとしたその瞬間、エリナの方向から鋭い釘が飛んできた。
僕は咄嗟にそれを掴み、釘を投げつけてきたエリナを睨む。
「いきなり何をするんですか!? 危ないじゃないですか」
「お茶を飲まないのに席を立とうとするからよ。私、出されたお茶を飲みきらない奴は殺してもいいと母さんに昔教わったわ」
どういう世界観で生きていたらそんな教えを請うことになるんだ。
「……何が目的ですか?」
「はっ、あんたもどうせ気付いてるでしょう。その子よ、その子」
いつの間にか立ち上がり、片手にハンマーを握っていたエリナが、俺の腰を指さす。
やはりこいつの狙いはアイン……もとい『ディアボリバー』か!
「いい? 悪いことは言わないから、さっさとその子を渡しなさい。あんたなんかより私の方がずっと、その子を可愛がってあげられるんだから」
「お断りします。この剣は、僕が命より大切にしているものなんです。貴方のような変態に渡すわけにはいきません!」
「ち○ちんのことを命より大事にするとか、あんたひょっとして
ん? 論理展開の筋が見えない。
と言うより、何を言ってるのか分からない。
「は? 貴方今なんて言いましたか?」
「だって剣とち○ちんって形似てるでしょう? っていうかち○ちんそのものよね?」
「目の病院に行った方がいいんじゃないですか? いや頭の病院かな?」
細長いもの全部男性器扱いするつもりなんだろうか。
「だから男のくせに剣士になったり刀鍛冶になろうとしたりする奴は
「剣士と刀鍛冶と
三者の誰だってこんなレッテルを貼られたくないと思う。
「特に剣士ときたら、どいつもこいつも腰の剣を大事そうに携えて……時には手入れしたりもするんでしょう? 剣を手入れしている姿がボーイズラブっぽくて興奮するって女もいるのかもしれないけど、私はそういう趣味はないからおぞましいとしか思えないわ」
「えっ、まさか他にも貴方みたいに剣を男性器に見立てて興奮してる変態がいるんですか。知りたくなかったです」
「いるかもしれないって言ったでしょ。私の想像上の存在よ」
「僕としては、貴方こそが一番想像上の存在であって欲しかったんですけどね」
(私はいつもご主人様に同じようなことを思っているよ……)
「っていうかその理屈でいくと、貴方は男性器を弄りたいがために刀鍛冶になったということになりますが、それでいいんですか?」
「そうよ。そうに決まってるじゃない」
この女。悪びれもなく言いやがる。
「この小屋だって……ち○ちんに囲まれたいがために作った特注品なんだから」
「……! 分からない……何を言っているのか、さっぱり……」
そういう言い方をされると途端にこの小屋が不気味でおぞましいもののように思えてきた。
いかん、目眩が。
「そりゃああんたみたいな男には分からないでしょうけどね! 女の子ってのはみんな願わくばち○ちんに囲われながら暮らしたいと思ってるのよ!」
「違うと思う! 多分貴方みたいな変態だけです!」
まるで女なら理解できて当然と言わんばかりのいいざまで、
「何よ! 私のどこが変態だって言うのよ!」
「どこを指摘すればいいんですか? 貴方のどんな特徴を言っても多分変態になると思うんですが!」
そんなことを言うと、またしても釘が飛んで来た。僕は裏拳でそれをはたき落とす。
「ガタガタ抜かしてないで、さっさとその子を寄越しなさい……その子は立派なおち○ちんを持ってるけど、ちょっとだけ角度が悪いわ。でも私にかかれば、きっと素晴らしい形に整えてあげることができると思うの!」
「……その後は?」
「私のコレクションとしてここに飾らせてもらうわ」
「却下です、却下! 別に返却してくれるつもりだったとしても、渡す気など毛頭ありませんが!」
(っていうかその言い方だと、私が男の子みたいに聞こえるじゃん! ご主人様、そのへんもちゃんと訂正して!)
「……確かにそれもそうですね……いいですか、エリナさん。貴方には見えないでしょうけど、この剣には女の子の精霊が宿っているんです。それも貴方とは比べものにもならないくらい小さくてすべすべでぷにぷにでほっそりしていてたおやかで愛らしくて可憐で繊細で綺麗な女の子が! だからこの剣が男性器だなんて、そんなこと微塵もありませんよ」
「!? 剣が、女の子……? 訳の分からないことを言って、私を煙に巻こうとするのはやめなさい!」
「こちとら貴方のことを見かけたときから、ずっと煙に巻かれてる気分なんですが」
「精霊が仮についてるとしてもねえ! 剣についている以上、そいつは男の子に違いないわよ! 百歩譲って男の娘ね! どうせ股と股の間にち○ちん挟み込んで隠してるだけよ!」
「馬鹿なことをいわないでください! そりゃあ僕は紳士ですから、改まって凝視とかはしませんけどね! あの子は服を着られないから、それでちゃあああんと見てるんですよ、彼女のぷにぷに※※※※を!」
(ご主人様……守ってくれるのはありがたいけど、今ご主人様もかなり気持ち悪いこと言ってるって、理解してる?)
「どうやら話は平行線のようね。ここから先は、実際に戦って決着をつけるしかなさそうだわ」
「同レベル扱いされてるのが気に入りませんが……」(実際同レベルだよ!)「……決着をつけるしかないというのは同意です。僕の方も、貴方のことをそのまま帰したくはなくなりましたから」
僕は鞘をつけたまま、『ディアボリバー』を構えてエリナに向き合った。
老いているとはいえ、女性にあまり手荒なことはしたくないんですが……まあ仕方ない。
アインを男の子だと罵った罪を、その身にしっかりと刻み込んであげましょう!
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