第4話 娘の結婚式

娘の結婚が決まった。別れた妻から電話が入った。

「あんたも出てよ!」

「出てよって突然云われても・・」

「籍がある以上、夫婦なんやからね」

「出るって、なんの相談も連絡もなかったしなぁー」

私は少し不満である。

「娘の気持ちも考えてやって」と、言われれば仕方がない。

妻が別れて住むことを云っても、離婚を言い出さなかった最大の理由は、この日のためである。


 この進まぬ気持ちをエーちゃんとマッチャンの席で喋った。2人は「先生の友人代表で招待してくれ」と言い出した。理由は私の気持ちを後押しすることと、「進まぬ気持ちで出て、酩酊して失敗しないかのお目付け役だ」という。友情を有難く受け取った。一切全て向こうで決められ、出席者も、花婿の顔さえ知らない、一人で行くよりいいと思ったのだった。

 式も無事終わり、披露宴の席、妻と私と長男との家族の席に二人はニコニコと居るのである。妻はそんな席配置をした覚えはないので怪訝な顔をしている。二人は「先生にはお世話になっています」と挨拶をした。私は二人を紹介。マッチャンの名刺を見て一応納得顔であったが、名刺も出さなかったエーちゃんには「あの人なに?」という顔をした。彼女はエーちゃんの小指を見逃すほどのんきな人ではない。


 席はエーちゃんがホテル側に云って変えさせたのだ。僕たちのテーブルには、ビール、日本酒、ウイスキー、ワインと並んだ。「先生おめでとう」「先生おめでとうございます」と、酒類を違えて交互に注いでくれる。妻は憮然とした顔をしている。

気がついた、彼ら流の妻への抗議である。いくら別れて住んでいるといえ、出席を頼む限りは当主である。事前の連絡、結婚相手の紹介、両家顔合わせがあるならそれへの出席要請があってしかるべきだと言いたいのだ。デモ、悪酔いして式を壊さないチェクはどうなったのか。粗相はなく何とか父親役は終えたと思ったが、結婚式で酩酊した父親は知らないと娘には嫌われてしまった。まー元から嫌われているので気にはしなかったが・・・。 無事式は終わって、私は花婿の顔を見れて、一献注ぐことが出来たのである。


 それから、3箇月ほど経った頃だろうか、マッチャンが1週間程見えない。花ちゃんに聞くと、東京の実家に帰っているという。「ええように行ったらねー」。花ちゃんはどうやら帰った理由を知っているようである。東京から帰って来たマッチャンの顔はさわやかであった。マッチャンはすこしポッチャリ型で身長は中ぐらい、髪は短めにカット、顔は丸顔、ここの客の中で唯一関東弁を話す。笑った顔は何ともチャーミングで、人懐っこい性格がまるわかりである。その顔がまだ笑っているのである。

彼女が来週大阪にやってくるという。この店のことを話したら是非この店にも顔出ししたいと言ったという。「エーちゃんにも、先生にも紹介します」と云って、彼女との馴れ初めを話した。彼女は横浜の女性で、マッチャンが高校3年生の時横浜の流通センターのアルバイトを夏休み中やったときに知り合ったという。大学時代も年に1〜2回会い、手紙を季節ごとに交換する程度の付き合いは続いたという。気が弱く、男女の世界では奥ゆかしいマッチャンにしてはそれが精一杯だったろうと私は理解した。

 

 マッチャンは大学を出て大阪のS製薬にやって来た。彼女は横浜で就職した。東京に帰ったおりには相手の予定が合えば会えた。季節ごとの手紙は続いた。それがここ1年こなくなった。中堅になったマチャンは仕事も忙しく東京にも帰れなかった、思いと心配は募った。花ちゃんに相談した次第である。花ちゃんがいかように言ったのかは知らない。ともかく結果はすごーくよかったのだ。彼女がくる日私は生憎、大阪市内で同窓会があってどうしても遅くなってしまうと云ったら、「遅くまでおらします。新大阪もここからならタクシーで近いし、最終で帰らせてもいいです」とマッチャンは自信に満ち溢れていた。彼女は日帰りなのである。


 同窓会は幹事役をやっていたので2次会は飛ばせなかった。アニヨンに着いたときは、私はかなり酩酊していた。エーちゃんもいた。マッチャンが彼女を紹介してくれた。「斎藤美由紀さんです」とマッチャンが照れくさそうに言った。私は塾の講師をしていると喋ってから、「マッチャンは僕の一番若い友達です」といったと思う。斎藤さんは僕の前に座った。顔を見たら何と目の美しい人と思った。目というより、鼻から上、顔の上の部分、目のあるとこら辺と言った方がいいかもしれない。吸い込まれるような目とは云うが、初めて見た思いだった。美しい人だった?顔のした半分は?思い出せないのだ。私の酔眼は彼女の目に吸い込まれて仕舞って、「下部」を見ること能わずであった。何かを話したのであるが会話は覚えていない。彼女は帰ると云って立ち上がり、マッチャンが車を呼んで送って行ったのは覚えているが、自分がどのように帰ったのか覚えていない。

 夢の中で私は一生懸命顔の下半分を見ようとするのだが、夢の中でも駄目だった。マッチャンの幸せそうな顔ははっきりと見れたのだが・・。

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