第10話 彼女の想い 3


その後の朝礼では、ゼノスから『午前中に裏口には近づかないように』使用人一同に言い渡されました。


 朝礼後にお嬢様に朝食をお持ちしたのですが私の顔を見たお嬢様は心配されました。

 なんでもないと言い張り、ゼノスに連れられて行くお嬢様を見送りました。


 ゼノスと共に部屋を出るお嬢様が私を振り返った時は胸が締め付けられる思いでした!

 不安いっぱいな顔・・・。

 敏いお嬢様ですから何か感じ取ったのでしょう。

 そんな顔を見たら居ても立ってもいられなくなり、気が付けば裏口に続く廊下に居ました。


「見送りは許可されていませんよ」


 厳しい声と共に鋭い目でゼノスに咎められました。


「ゼノス・・・少しで良いのお願い。最後に話させて・・・」


 懇願する私にため息をついたゼノスは


「・・・分かりました。少しだけですよ」


 と少しだけの時間をくれました。

 

 それにお礼を言えば、横に捌けお嬢様に会わせてくれました。

 動きやすそうなワンピースに歩きやすい編み上げブーツ、背中には重そうなリュック・・・。


 全てが二度と此処にお嬢様が戻ってこないことを物語っています。

 私はいつもする様にお嬢様と目線を合わせ


「短い間でしたが、一緒に過ごすことが出来てリアは本当に嬉しかったです。今まで外に出てみたいなとお話されていましたが、こんな形で外に出れた事残念です。出来る事なら私も一緒に行きたかった・・・。それが出来なくて本当に申し訳ありません。外に出たら楽しい事も辛い事もあるでしょう。それでも私はお嬢様がちゃんと立って生きていけると分かっています。どうかお体に気を付けて下さい」


 伝えると同時にお嬢様を抱きしめました。


 一緒に居る内にまるで自分の本当の子供と過ごせた事が嬉しかったこと、外に出れた事を嬉しく思うのに一緒に行けないのが辛くい事・・・。

 何も知らないお嬢様がこの先、生きていくには絶対に苦労する事も・・・。

 全てを初めて言葉にしてお嬢様に伝えました。


 「リア、お見送りダメなのにありがとう。私もリアと一緒に居れて本当に良かった。リアも体に気を付けてね」


 そう言いながら抱きしめた手に力を入れたお嬢様に泣きそうになりました。

 こんな幼い子を一人で放り出す事に。

 全てを理解しているのに私を気遣う言葉をくれた事に。

 それでも私は泣けません。

 私が泣いてしまえば、お嬢様を困らせるだけだから・・・。


 抱きしめていた手を放すと、お嬢様も薄っすらと涙を浮かべていました。

 泣かない様に笑顔を向けると、お嬢様も返してくれました。


 そして、私はお嬢様に一つの小さな袋をお渡ししました。

 中には小さな指輪と、少しばかりの宝石を。


 指輪には、今後の安全と健やかに育って欲しいと願い子供に送る守りの指を、宝石はお金に困る事がこの先あろうと思い換金の為の物を。


「そろそろ行きましょう。これ以上、遅くなるわけにはいきません」


 ゼノスさんの言葉に、私達は離れた。

 最後に


「リア、さようなら」


「はい。お嬢様、さようなら」


 その言葉を最後に、お嬢様を見送りました。


 もう会う事がない。

 会う事が出来ない意味でもありました。

 私が出来る事はお嬢様の無事を、この先へ幸福が訪れる様に祈ることです。


 元気にお過ごしください。


 少しの間だけでしたが、私の名もなきお嬢様。


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