第4話

 そして、ついにその日がやって来た。夜の闇に紛れ、各地の村の男たちは指定された日時に王宮へそっと移動する。中にはいきり立った女も混じっていた。途中で合流し、大集団になって道を進む姿もあった。そして打ち合わせ通りの日に王宮の前に、緊張した面持ちの大人たちが集まった。彼らの手には稲を刈るための鎌、木の棒、はたまた来る途中で拾った角の尖った石など、思い思いの武器が握られていた。

 誰かが高尚な演説を始めることはなかった。団結のあかしとしてトレードマークを身に付けるということもなかった。ただ、悪逆を尽くす侵略者を打ち果たそうという気持ちだけで、この国史上最大の同盟が完成していた。

 その様子を、侵略者は王宮の頂上のバルコニーから見つけたとき、飛び上がるほどに驚いていた。天気がいいから外を眺めようとしたら、王宮の足元いっぱいにゴマ塩をまいたような人だかりがあるのだから。

 そして侵略者が驚く様子も、足元の国民からは見えていた。それがきっかけだった。

 誰かが一歩踏み出し、それに続いて他の誰かが一歩踏み出す。前へ前へと連鎖は続き、間もなく大集団は雷のような雄たけびを上げながら王宮へ突き進んでいった。

 王宮の正面玄関を突破した国民たちは、洪水のごとく王宮を侵攻しながら上へ上へ、今は侵略者のものとなった王の間を目指す。その勢いはまさに鉄砲水のようで、侵略者が逃げる準備も退路も与えることは一切なかった。

 誰が討ったのかはわからない。ただ、王宮に人々がなだれ込んで一時間もしないうちに、侵略者は何者かに振るわれた凶刃に沈んだ。王の間へ入った人々に囲まれ、大きなトラの毛皮の絨毯に積まれたお菓子の山に倒れ、何も言わずに絶命した。呪詛の一つでも吐いたかもしれないが、どちらにしろ怒り狂った人々の耳には入らなかった。

 勝ちどきなんてものはなかった。多くの人々がいたというのに、歓声らしい歓声は全く上がらなかった。

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