第3話

 そんな中、とある地域では、王宮に居座る侵略者を何とかして倒そうという動きがひっそりと話し合われていた。

「なんとかあの侵略者を倒す方法はないものか」

 一人の男が言ったが、その場に集まった者は老若男女問わずみんな口をつぐんでしまった。先日市場で侵略者が暴れた様子を見ていた人はその時のことを思い出し、かたかたと震えてしまうのだった。

 あれやこれやと話し合っていたが、侵略者打倒の名案は浮かばなかった。

 その話し合いの中で、日に焼けた農夫の一人が、隣にいた男性に話しかけた。

「そういえばお兄さん、もとはこの国の外の出身じゃなかったか?」

 聞かれた男が答える。小奇麗な服装に丸メガネをかけた、いかにも学者らしい風体の男だった。

「そうですね。僕はふらっと旅行でこの国に来たのです。いやあ、ここは居心地がよくてついつい長居しちゃいます」

「なら聞きたいんだけどよ、じゃんけんの相性がない国の外では、どうやって偉い人に反抗するんだい」

 その場の皆が注目する中、丸メガネの男はしばらく考え込んでいたが、眉間にしわを寄せつつこう答えた。

「特にこう、といったようなことはないですね。暴力で抵抗することもあれば、民意や言論で立場を覆らせることもあります」

「でもあの侵略者にはみんなで挑んでも勝てなかったし、何か申し立てれば考えてくれるような人とも思えないけどねえ」

 不安そうな声色の主婦が口を出す。メガネの男も困ったような顔をした。

「この国の外にはじゃんけんの相性がありませんからね。勝てるときも負けるときもあります。誰にでもね。……まずはこの国の中で絶対的な力を持つ、この相性をなんとかしないと」

「と言われてもなあ……」

 しかし、国民のほとんどにとっては気が付いた時に常に持ち続けているものである相性をどうにかしようなど、自らの体の一部を取り外そうと考えるようなものだった。解決の糸口が見えたかのように思えたが、人々はまたもや悩み唸ってしまった。

 すると、彼らを囲むように話し合いを聞いていた子供たちが、きれいな小石を見つけたかのような跳ねた声で言った。

「じゃんけんの相性って『グー』とか『チョキ』のことでしょ!あれって外せるんだよー」

 沈黙。しばらくの沈黙。トンネルで大きな音を出した後のような沈黙。

 そして口々に「そんな馬鹿な」や「ありえない」といった旨のセリフを口々に吐き捨てた。笑い出す者もいた。

 笑われた子供はむきになって主張し続ける。

「本当だよ!みんな遊ぶときはじゃんけんを外してるもん!」

「じゃ、じゃあ、どうやって外すんだよ」

「え、えーと。こうやってだよ!」

 疑いの目を向ける大人たちにやり方を見せるため、最初に口を開いた子供や、その回りにいた友人も、頭から何かを外すような動きを見せる。ちょうど、それまで被っていた見えない帽子を外すような動作だった。

 そして周りの大人たちは驚いた。それまで子供たちから感じ取れていた『グー』などの相性の気配がぱったりと消えてしまったのだ。

「こうすれば元にも戻るよー」

 ざわつく大人たちの前で、子供たちは今度は逆の動作をする。帽子をかぶるような仕草をした後、子供たちに再びそれぞれの相性が戻った。

 こうなってくると子供たちの話はいよいよ真実味を帯びてきた。大人たちが相性の外し方を子供たちから教わり、できるようになると近くの村へ伝令を急いで走らせた。国中の村がじゃんけんの相性を捨て、侵略者に反撃する準備を着々と整えていった。

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