第25話 どうして私たち血の繋がった兄妹なの?
最高なライブが終わって早3日が経った。まだライブの余韻から抜け出せないでいるが、もう春休みも終わり次の学年へと進級する。兄や姉は相変わらず社畜である。
憂鬱な学生ライフという現実に引き戻されながら通学路に向かおうとした時に玄関から物音がした。振り返るとそこには兄が居た。
「良かった。間に合って。今日は俺早く帰って来るからな。気をつけて」
「うん。いってきます」
「いってらっしゃい」
家を出るのも遅ければ帰って来るのも早いとは羨ましいが、帰りが遅くなることが多い兄としてはそんな日があっても良いだろう。
姉はいつも通り決められた時間に行き、定時には仕事を終わらせまっすぐ帰って来ることが多い。たまに外食して帰って来ることもあるが。
今日は久し振りに家族そろって夕飯を食べることができそうだ。お父様も最近は定時で帰ってきているし。そのような家庭への憧れがあったせいか転生してもう何か月か経つのにとても嬉しい気持ちになる。その反面私の知らない私の幼少期は毎日そうやって食卓を囲んでいたのかな? とか、余計なことを考えるようになっていた。『もし』のことを考えたって仕方がない。それは変えられない過去である。
今日も今日とて警備員としか話さなかった。そんな新学期がこの世に存在するんですか? 誰よりも早く帰路に就く。今日は兄が早く帰って来る。それだけでワクワクして早足になる。
いつもより早く家に着くと玄関には兄の靴が置かれている。どうやら既に帰宅しているらしい。
「ただいまー」
「おかえり。お疲れ」
「もう帰ってたんだね」
「おう」
大体私と姉が兄を出迎えるのが恒例であるが、今日は兄が出迎えてくれる。それを追ってお母様も出迎えてくれる。
「冴香が帰ってきたら一緒に風呂に入るか?」
「う、うん」
それがこの家の恒例行事とはいえ、やはり未だに照れる。私の頬は紅に染まっていると思う。
「それまでゆっくりしとけ。俺がご飯作るし」
「うん、ありがとう」
早速課題地獄に追われそうである。せっかく兄が居るというのに。世知辛い世の中だ。こんな世の中じゃポイズン。
定時から1時間もしないうちに姉も帰宅する。やはり姉も兄が早く帰ってくることを知っていたみたいだ。夕飯作りで手が離せそうにない兄に代わって私が出迎える。
「ただいま。にぃーやんは?」
「おかえり。お兄ちゃん、今ご飯作ってくれてるよ」
「そう」
姉と私は自室に行き、夕飯ができるまでそれぞれの時間を過ごす。私はエベレストかと思うくらいの課題の山を少しでも片付けるのだ。
夕飯ができると食卓のある一階から兄が私たちを呼ぶ。イケボな声で。
「おーい、ご飯できたぞー!」
「はーい、今行くー!」
私だけ返事するとは何か珍しいような気がした。それに姉はまだ自室から出てこない。普段の姉なら真っ先に返事をして階段を駆け下りるのに。
私が食卓に着くと兄は怪訝そうな顔で尋ねてくる。
「冴香は?」
「返事もなかったし、まだ来ないね」
「冴香も流石に疲れてるんじゃないか?」
「うん……」
この違和感に兄は気づいてないということはないだろう。姉妹になって数カ月の私ですら感じているのに。
「ねぇ、おかしいと思わないの?」
「何が?」
「あれだけブラコンなお姉ちゃんが返事一つしないなんて」
「疲れて寝てるんじゃないか」
「そうかな……」
「もう先に食おう」
兄も姉のことを突き放したような感じがする。この感覚前にもあった気がする。デジャヴってる。
食卓にはできたての夕飯に姉以外の家族。ほぼ独り立ちしたような家族ならここまで家族がそろうこともそうそうないだろう。この一家が世間よりも変わっているだけなのだろうか。私には知る由もなかった。
食事を終えて自室に戻ろうとすると姉の部屋からすすり泣く声が聞こえてくる。強がりでプライドも人一倍高いけど、意外と泣き虫で繊細だったりするので私とは正反対だ。きっと今回も涙を見せまいと自室に籠っていたのだろう。
ここはそっとしておくべきなのか、それとも声を掛けるべきなのか。私のお節介が発動しそうになる。だって、きっと姉の力になれるのは私だけな気がするから。ノックをするべきか姉の部屋の前で葛藤する。
私を覆うようにして後ろから姉の部屋の扉をノックする人影が。背が高いとこんなこともできるのですね。
「おい、入るぞ」
扉の向こうから姉の返事はなく、ただすすり泣く声だけが聞こえる。扉を開けざるを得ない状況になり、兄と一緒に姉の部屋へ入る。
「部屋に入っていいなんて一言も言ってないじゃない……」
ごもっともである。大好きな兄とは言えデリカシーないよ……。
「ごめん。ちょっと心配になって」
「わ、私も、そんな感じ……」
「べ、別に心配してほしいなんて言ってないわよ!」
言葉の端々が普段に増してきつい。これ姉じゃなったら絶対心折れてる……。それに対抗するかのように兄もきつい口調で言い返す。
「泣き声が聞こえてきたら心配するのは当たり前だろ!」
「そ、そうかもしれないけど……、こんなの恥ずかしくてにぃーやんには言えない!」
こんな兄を見るのは初めてで思わずビビってしまう。姉も一瞬驚いた様子であったが、すぐさま言い返す。それをただ茫然と眺めるしかなかった。
姉は袖で涙を拭き、小声で漏らす。
「どうして私たち血の繋がった兄妹なの?」
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