第19話 ぐふふ! 推しと推しとの共演!!

 今日は一つイベントがある。それは大切なイベントである。早くイベントに向けて様々な支度をする。会場は自室。開始時刻は21時から。兄は勿論家にいはいない。だって、生配信だから。そう、ドヤ生ことドヤドヤ生放送でのアニメ放送直前

特番『ハーレムで今日もテンションアゲアゲ! ふたりでもテンションアゲアゲ!』が放送されるのだ。

 出演はW主人公の声を当てる芦原拓央と桜之宮さくらだ。推しと推しとの共演! なんて尊い! 見どころは1時間の放送という短い尺で2人の暴走(トーク)が収まるのか、ツッコミ役がいないためどちらがツッコミ役に回るのかだと考えている。2人とも性質は違うが、どちらかというとボケ担当な節がある。その分トークも声優界ではピカイチだと思う。贔屓目抜きにしても。

 放送開始5分前になり、ノートパソコンを起動する。ドヤ生のマイページから番組再生ページへとアクセスする。既にコメントで溢れかえっている。それだけ注目度の高いアニメであることや、芦原拓央と桜之宮さくらの人気声優っぷりが伺える。

 定刻の21時、「ドーヤドヤ動画」の音楽が流れ、映像が切り替わる。そこにはいつも家で顔を合わせる兄と女子会仲間の元家庭教師が映っている。しかし、いつもとは違う。これは営業用の顔である。仕事モードONの状態だ。BGMは初公開のOPテーマっぽい。拓央君の「アニメ放送直前特番!」と言う掛け声の後、2人の息バラバラなタイトルコールがされる。画面上は「www」で埋め尽くされる。大草原不可避。

「「『ハーレムで今日もテンションアゲアゲ! ふたりでもテンションアゲアゲ!』」」

「こんばんは、晴夫(ハルオ)役の芦原拓央でーーーーす!!」

「こんばんは、美雨(ミウ)役の桜之宮さくらでっす!!」

 テンションアゲアゲ!というタイトルにちなんで2人ともテンションがいつもより高い。非常に熱い。 

 さくらがツッコミに回り、タイトルコールについて触れる。

「早速先が思いやられるタイトルコールだったんだけど!」

「ですねぇ。しかし、アフレコ現場はチーム一丸となって収録しております」

 ナイスフォローな拓央。流れるコメントもテンションが高い。そして、拓央がアニメ放送直前特番の概要を紹介する。横に並んで座っているさくらはうんうん頷きながら、原作漫画を手に取り、指さしている。

「四月から放送開始されるアニメ『ハーレムで今日もテンションアゲアゲ!』。原作は週刊少年雑誌にて好評連載中の晴れ時々雨先生による累計発行部数は200万部を超える大人気漫画です」

 拓央に替わり、さくらが放送局と放送時間を紹介していく。横に並んで座っていた拓央が立ち上がり、壁に貼られたポスターの下の方に書かれた放送局と放送時間を指さす。それにカメラがズームしていく。

 放送局と放送時間の紹介がスムーズに終わり、拓央がBGMについて触れる。

「今流れているBGMは初披露、アニメのOPテーマ北浜悠宇さんの『Sunny!』です」

「めっちゃテンション上がるいい曲だよね! 東雲(シノノメ)役としても出演している北浜悠宇ちゃんとたまたま現場で会ってこの曲の話をしてたのね。悠宇ちゃんが『この曲の収録でテンションアゲすぎて息切れやばかった』って言ってたの」

「北浜さん大変だったね。テンションアゲアゲな曲調にアニメの世界観そのままの歌詞が堪らないんですよ!」

「THE アニメのOPって感じだね」

 OPテーマについての感想やマル秘エピソードへのコメントが大量に流れてくる。OPテーマのウケもいい様子。

 OPトークも終了し、本題のアニメのあらすじやキャラクター紹介のコーナーに移る。さくらが台本に書かれたアニメのあらすじを読み、いつの間にか着席している拓央がさくらの隣で表情を七変化させ、流れるコメントがざわついている。とても拓央らしい(好き)。

 あらすじ紹介が終わり、キャラクター紹介は拓央が担当。画面が切り替わり、各キャラクターのキービジュアルとキャラクター概要が書かれたものが映し出される。その中でもひと際コメントが多く流れてきたのはメインヒロインである美雨だ。本作どころか週刊少年雑誌内のヒロインランキングでも3年連続1位である超人気キャラクターだ。さくらはそのキャラクターとしてオーディションに受かったのだから感心する。

 その他の登場人物も紹介されると美雨ほどではないにしてもコメントの嵐である。これだけのファンが待ち望んでいたアニメ化ということを痛感させられる。

 一通りキャラクター紹介も終わり、拓央がさくらに話を振る。

「桜之宮さんは美雨というキャラを演じてみてどうでしたか?」

「美雨は今まで演じてきたキャラとは違ってツン要素があって、でもめちゃめちゃピュアなキャラなの。だから、デレ過ぎず、でもツンツンし過ぎないそのさじ加減が難しかった。それに週刊少年雑誌内のヒロインランキングで3年連続1位の人気キャラでオーディション受かるなんて正直思ってなかったの。最初は東雲役でオーディション受けてたから。プレッシャーは正直ないとは言えなかったけど、美雨と共に歩んでいこうと思ったんだよ」

「めっちゃええ話やん! 桜之宮さんの熱い思い届いたか?」

 拓央が似非関西弁でそういうと「届いた」や「88888」といったコメントがたくさん流れてくる。えへへ、と頭を掻きながら照れるさくらも本格的かつ慣れ親しんだ関西弁で拓央に聞き返す。

「拓央君も晴夫を演じてみてどうやったん?」

「羨ましいですよー、もう! 可愛い女の子たちに囲まれてねー。もともと原作のファンだったからオーディションの話を頂いた時に『本当に僕が普通の何処にでもいるような男子高校生を演じられるかな?』と思いました。最近では一癖も二癖もあるキャラを演じることが多かったから」

「確かに」

「確かにとか言うんじゃない!」

 2人の役への思いやエピソードを聞けたところで視聴者の感動や笑いコメントが流れてくる。それをさくらが拾い、読み上げる。

「ほらー、めっちゃコメント流れてるよ。『さくらちゃん可愛い』だって! ありがとう~!」

「そこを拾うのね」

 ニコニコしながら手を振るさくら(可愛い)は投げキッスのサービスまでしてくれる。それに視聴者は大盛り上がり、拓央も「ずるいぞ!」と言いながらさくらに対抗して投げキッスをする(可愛い)。コメントは黄色い歓声のようなものばかりで埋め尽くされる。女性視聴者どころか男性視聴者の心をも鷲掴みにする拓央(好き)。この放送の中で1番の盛り上がりっぷりだ。

 (案の定)時間も押しているため次のコーナーに移るとのこと。次のコーナーは連想ゲーム。お題に対し、2人が答えをスケッチブックに書き、合致させることでポイントが入る。ポイントによって豪華賞品を視聴者にプレゼント。お題は計5問で、1ポイントでアニメ特性ステッカー、2ポイントでアニメ番組宣伝用ポスター、3ポイントでアニメEDテーマのCD、4ポイントで芦原拓央と桜之宮さくらの直筆サイン入り色紙、5ポイントで原作本既刊全巻とのことだ。気合い入り過ぎな豪華賞品は芦原拓央と桜之宮さくらにかかっている!

 お題を拓央が読む。流れるコメントはさっきと打って変わって緊張感漂う雰囲気になっている。

「お題1問目『お弁当のおかずと言えば』。はーい、書いてください」

「えー、お弁当のおかずでしょ? でもこれ当てに行かないといけないのか。何かめっちゃ書いてるよ」

 悩むさくらとは対照的に拓央は答えを書き終え、お絵かきをしている。またあの奇妙なイラストか(知ってた)。

 スタッフの合図があったのか拓央が答え合わせを促し、2人同時にスケッチブックをカメラに向ける。

「コロッケ」

「唐揚げ」

「全然あってないじゃーん! それも何そのイラスト。怖いよ!」

「どっからどう見ても唐揚げじゃないですか」

「え、唐揚げに目と口があるの怖いよー。食べたくなーい」

「美味しいよ(イケボ)。それよりお弁当にコロッケなんて入ってることあります?」

「あるよ! コロッケ好きだもん!」

 拓央の奇妙な唐揚げイラストへの悲鳴コメントとさくらへの擁護するコメントと当てに行ってないさくらの自由人に対するコメントで画面が混沌としている。まさにカオスとはこのことである。

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