第7話 制服はセーラー派?ブレザー派?それともジャンスカ派?
こっちの世界に来てまだ一カ月も経っていないが、こっちの世界に来て初めての誕生日だ。ハッピーバースデートゥーミー。
無理は承知でお兄ちゃんにあることを頼む。お兄ちゃん、家に帰っても営業スマイルよろしく!
本当はこんなことをファンとして頼んではいけないとは思うのですけれども、でも、今日は私の誕生日なんです。こっちに来て初めての。
今日はアフレコしかないみたいでまっすぐ帰ってきてくれるそうだ。お兄ちゃんったらやっぱり私が好きなんだね!
昨日のことである。こっちに来てからどこに何があるのか大体把握はできたが、まだ奥のタンスまでは見ていなかったために興味本位で見てみるととんでもないものが……。
「いや~参った。『こんなもの何で持ってるの? どこの制服?』って言われちゃうよな」
奥のタンスから見つかったのは転生前にいた世界で着ていた制服だ。うちの中・高の制服可愛いんだよ。人気の制服だ。なんといってもうちの制服の目玉はセーラー、ブレザー、ジャンスカの三種類の制服から好きなものを選べるという珍しい制度をとっている。それも夏冬と分かれているため実質六着になる。まぁ、六着も購入する人はなかなかいなかったけど。私はこの制服だけで受験校を決めたので全種購入した。
セーラーの冬服は紺を基調としている。襟には白いラインが入っている。スカーフは三色あり、赤が一年生、青が二年生、緑が三年生。冬服はスカートの丈は膝下、黒のタイツと規定されている。夏服は白を基調としており、襟は水色に白いラインが入っている。夏はスカーフではなくリボンを着用する。リボンも三色あり、ピンクが一年生、黄色が二年生、紫が三年生だ。スカートの丈は自由でソックスの色や丈は自由であるが、キャラクターもののソックスは禁止とのことである。それでも派手である。
ブレザーのブラウスは冬服が白、夏服は薄い青。ブラウスはリボンまたはネクタイである。ネクタイはセーラーのスカーフと同様である。スカートの丈は自由であり、ソックスも自由である。また、タイツも可。しかし、キャラクターもののソックスは不可。というかどの制服も共通して不可だ。
ジャンスカことジャンパースカートは、紺を基調としている。ブラウスは夏冬共通してシンプルな白。実はブレザーの冬服の使い回しであることは秘密事項である。スカートの丈は膝下、リボンは全学年共通で赤い紐と規定がある。ソックスはハイソックスが紺か黒、くるぶし丈のソックスは白、冬は黒タイツという規定もある。ジャンスカは特に規定が多い。ブレザーやセーラーは色が自由なカーディガンであるが、ジャンスカの場合カーディガン・セーターも規定の校章入り紺である。
ここまで選択肢が豊富にあると改造も豊富である。セーラーやブレザーにジャンスカのリボンを使用する生徒もいる。ソースは私。彩り豊かな制服をそれぞれが自由に着て登校するため一つの学校ではないようだ。それが私の母校である。
六年間気に入ってきていた制服であるため卒業後もずっと保管していたが、これらも一緒に転生してくるとは……。使い道もないと思っていたが、今日この日のために保管していたのかもしれない。そう、この日私の誕生日のために。
私の一つの趣味というか性癖というか、女装男子や男の娘が好物である。それを今日兄にしてもらおうという計画だ。天才! 私マジ天才!!
玄関が開く音がする。どうやら兄が帰ってきたようだ。姉に拉致られる前にお兄ちゃんの元へ。
「お兄ちゃん、おかえり! その箱もしかして……」
「あぁ、ただいま。そうだ」
「ありがとう!」
「可愛い妹の誕生日だしな。奮発した」
転生前は両親から誕生日を祝われることもなかったから純粋に嬉しい。最後に両親に祝われたのなんて多分幼稚園生くらいの時じゃないかな。ゲームアプリで誕生日設定していたら推しから「お誕生日おめでとう!」と言われるくらいしかお祝いされた記憶がない。それはそれで嬉しいことだが。
それにしてもいつもの猫なで声が聞こえてこない。ふと階段のほうに目をやると姉が死角になるとこでひょっこりしている。そんな芸人いたよね?
姉なりの気遣いだと受け取っておく。こんなところで邪魔するような女王様ではないということか。
兄からケーキを受け取り食卓へ持っていく。今日の夕飯は私の好物ペペロンチーノらしい。オリーブオイルのいい香りが脳と胃を刺激する。兄が洗面所に行っている間に私もサラダを取り分けたりと夕飯を作ってくれているお母様のお手伝いをする。そういえば私がペペロンチーノ好きって何故知っているのだろう? そりゃ、十九年以上一緒にいるらしいからか。
姉も香りにつられて自室から食卓にやってくる。
「あぁ、今日色乃の誕生日なのね」
何も知らないふりしてそういうこと言うけど、私は知ってるからね。私に気遣って兄を出迎えなかったこと。
食卓にお父様以外の食事が並ぶ。お父様は今日も帰りが遅いようだ。残念。初めての誕生日なのに。
お父様としては私と過ごす誕生日は初めてにならないからか。
食事を並べ終えると兄も食卓へやってくる。ニコニコしながらお母様に言う。
「美味しそうな匂い」
「そうでしょ。いつもより気合い入れたからね」
お母様もニコニコしながら答える。お母様の笑顔は本当に兄に似ていて癒される。いや、拓央君がお母様に似ているんだよ。
皆が食事を前に手を合わせ「いただきます」と言って食べ始める。
お母様の作ってくれる食事は美味しい。これがおふくろの味っていうのか。美味しい食事というのはすぐになくなってしまう。
皆が食事を終えると兄が紅茶を準備する。姉は食べ終えた食器を流しまで持っていき、ケーキをのせるための皿を用意する。お母様はろうそくに点けるマッチを用意する。私は何をすればいいのか分からなかったが好意に甘えて何もしない!
ケーキの箱を開け、ろうそくを立てる。そしてろうそくに火をつける。キラキラ光る火に温もりを感じる。拓央君と過ごす誕生日だからではなく、誰かと過ごす誕生日だから。七対三くらいの割合で。
生クリームとたくさんのフルーツがのったホールケーキ。それを五等分に切るお母様。お父様の分も残してくれるぐう聖!
お父様には申し訳ないがお先に四人でケーキを食べる。
「美味しい! ありがとう! お兄ちゃん」
「流石、にぃーやん! センスいい!」
「あはは、ありがとう。色乃にも冴香にも喜んでもらえてよかった」
美味しいケーキに兄が入れてくれた紅茶。紅茶は熱いので未だ飲めていないが。こうして誕生日の食事とデザートは一瞬にして胃の中へ消えた。
そしてついに私はあの計画を実行する。もう想像しただけでもよだれが……。姉には知られないようによそ見をしているうちに兄の耳元でこそこそと話す。
「ねぇ、お兄ちゃん私の部屋来て」
「おう」
兄は何も聞いてこずに承諾してくれる。たまんねぇな、おい!
私は先に自室へ行き制服を用意する。兄はしばらくしてからやってくる。
「色乃、どうした?」
「ふっふーん! お兄ちゃんには今日私にサービスしてもらいたいのですよ」
兄ははて、と小首をかしげる。しかし、私はドヤ顔でベッドの上の多数の制服を見せる。
「お兄ちゃんにはこの制服を着てもらいます! 何を言っても無駄だからね!」
兄は冷や汗をかき始める。そんな顔されたら余計着せたくなる。
「お、俺はそういうのは特別扱いしない主義なんだ。一人のファンにしか特別扱いしないとかはないのだが」
兄らしくない様子がまたたまらない。焦っている表情が可愛い。流石、我が兄!
私は悪戯っぽく言う。
「でもでも~、今日は可愛い妹の誕生日じゃん? できるよね?」
兄は目をそらしながら、こくりと頷く。やはり可愛い妹の頼みには弱いようだ。
「ちょ、ちょっとだけだからな……」
赤面しながら言う兄がもうすでにいじらしい。たまらん!
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