第1話 生き物がいない森

 私が一瞬目を瞑っただけで夜に変わっていた。

 何度もラピスラズリのような目を擦ったり、瞑ったりしたが森に広がる暗闇はそのまま存在している。

 空高く浮かんでいた太陽は月に変わり、漂っていた雲も点々と煌めく星になっていた。


「本当に夜になっちゃった。ただ目を擦っただけなのに」


 辺りは暗くてよく見えないからここから動けなくなってしまった。そもそもこの森の中を闇雲に歩いたってここにたどり着くだけだからどうしようもない。


「どうしよう」


 今のところはお腹は空いていない。そしてそんなに疲れていない。

 森の中に広がる暗闇を見てしまうと不安を覚えてしまってラピスラズリ色の目からポツリポツリと涙が出てくる。

 いくら拭いても溢れてくる涙を拭きながら声を抑えた。何もいない森の中で一人佇む私は孤独を感じた。


 夜になったことにより無音な森の中がさらに不気味になった。

 涙が溢れる瞳に微かな光が映った。

 弱々しいオレンジ色の光はユラユラと森の奥で揺らめいている。


「あっ、あれは?」


 私の足は自然とオレンジ色の光に向かうように歩きだした。

 私が光に近づくごとにオレンジ色の光が一つ、二つと増えていることに気付いた。

 光が増えるごとに歩む速度も上がって、気付けば光は15個前後までに増えていた。

 ようやく光の場所までつくと数え切れない程の淡い光が漂っていた。


「わぁー!キラキラして綺麗!」


 まるで外国の虫、ホタルの光みたいに綺麗だった。

 光に触れよう手を伸ばしたが光には触れず、光は通り抜けてしまった。触れた感触もなくフヨフヨ、ユラユラとその場で浮いては揺らめいているだけ。

 私は飽きるまで光を眺めていた。


 背後の茂みからガサガサと物音が聞こえたような気がしたが、私はそんな物音を気にせずにホタルの光に似た何かを眺めていた。

 本当に綺麗だった。昔、日本という国に連れてってもらった時、夜の川の付近で漂う光、ホタルを見かけた時は誰かに肩を叩かれるまで見てしまった。

 あの時、私の肩を叩いてくれたあの子のことが凄く大切だった気がする。名前や顔が思い出せないから本当に大切だったのか疑いたくなるけど、あの時感じた気持ちは不思議と覚えている。


 この気持ちは本物だと願いたい。


 背後からの物音がだんだんと近づいてくる。ペタリペタリとやけに湿っぽい足音が恐怖心を煽りたて背筋を振るわせることで気づいた。

 私は怖くて後ろを振り向けれない。ただ近づいてくる存在から逃げなくちゃいけないのは恐怖心が訴えているから理解できる。できるのに私の足は動いてくれない。それどころか体がカチカチに固まって動けない。


「があぁぁっ!」

「がはははっ。死人しびと共が死人しにん死人しにんらしく寝てやがれ」


 私の後ろで恐怖の存在が空の彼方に吹き飛んだ。

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