アイリスワンダー

七刀 しろ

序章

「ここはどこだろう?」


 私は今、深い深い森の中を彷徨う。

 森の中で目覚めてからどのくらい時間が流れたかわからない。私の感覚的には何十時間も過ぎた感じだけどまだ明るいからそんなに時間が経った訳ではないと思う。


 私は気がつけば森の中で倒れていた。

 目覚める前の記憶がない。何かを追いかけていたような気がするけど記憶にはさっぱりない。自分の名前、アイリス以外、何も思い出せない。

 家族がいたようないないような。友達もいたようないないような。大切な物でさえ忘れてしまっているような感じだ。


「訳がわからないよ」


 しかし、この森は不思議だ。私以外の生き物がいない。

 森は生き物の宝庫なのに彷徨っている間、虫と鳥の姿が全然見えない。生き物が存在している気配がない。


「誰かいませんか!!」


 森の中で叫んでも何も反応がない。この森には生き物がいないようだ。

 鳥の囀ずりや虫の羽音がなく。葉っぱが擦れる音と風が流れる音しか聞こえない。それが私を逆に不安にさせている。


「あれ?ここはさっきも通ったはず」


 目の前にある木が先程見かけた木と同じ形の枝と模様に気づいた。さっきからぐるぐると同じ道を歩いている気がする。

 足元にあった小石を拾い木の幹に×印をつける。


「よいっしょ、これで同じ場所を通ったか確められる」


 私は真っ直ぐなるように意識して歩いた。

 真っ直ぐ歩いていた筈なのにまたさっきまで歩いていた道に戻っていた。


「ムゥ。おかしい。あれ?」


 もうひとつおかしい出来事に気づいた。

 自分の時間の感覚がおかしくおかしくなっている。


 あれこれ森の中をグルグル回っているのに空を見上げると雲と太陽の動きがないことがわかった。この森はまるで時間が止まってしまっているように感じがする。だからか生き物の気配がないのだろうか?


 やはり、幹に×印を付けた木に戻っている。

 諦めずに森のグルグル回り続けた結果、肉体的にも精神的にも疲れた。

 回り続けてどのくらいの時間が経ったのだろう?長い時間が流れた気がするけど全然経っていない気がする。

 この森はおかしい。森の中に足を進めれば進む程時間の感覚が狂う。


「スゥ。疲れた。ほんとに誰かいないのかな」


 ×印を付けた木に背を預けて一休みする。

 今いる森と自分の現状について考えてみる。


「私は時間の感覚がない森の中で迷子で私に関する記憶がない。これは詰んだ」


 私は絶望した。


「森の中で迷子の私は餓死して死んでしまうんだ」


 悲劇のヒロインを演じてみても私が置かれている状況は一行に変わる気配がないのは知っていたが実感してしまうと虚無感を感じる。


「キャッ!」


 森の中で強く吹いた風が私の金色に輝く髪を包み込むように撫でた。不意に吹いた風に驚き目を瞑った。


「嘘、今まで明るかったのに」


 目を開けると明るかった森の中は夜の暗闇が至り一面に広がり木々の間に月明かりが剣のように差し込む怪しげな森へ変わっていた。

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