第44話 シシシシ

「シシシシ」声がした気がした。懐かしい声だ。

 何も知らない、あの頃のあの子のような声だ。川の流れのようにキラキラとして何処か謎めいていた彼女はいつでもそういう笑い方をした。


「どう?気分は?」

 私は彼女に声をかけた。彼女は相変わらず虚ろな目でシシシシっと笑った。

「悪くないよ」

 5年ぶりにあった彼女は酷く痩せていて、頭には白髪が目立った。

「いいことだ」

 私は一抹の不安を抱えながらそう呟いた。

 彼女は鬱病患者だった。最初ここに来た時は焦点すらまともにあってなかった。

「シシシシ」

 彼女は笑った。でもそれだけだった。

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