第129話15-7

 ジュリは洞穴内の酸素を肺に取り込むように一気に息を吸い込む。 

地面は焼け、火は弱まったとは言えまだまだ熱気は引かない。


 ジュリは意を決して火の中に飛び込むと、靴底と皮膚から感じる熱に耐えながら駆け抜けるのであった。




 ――ジュリはペンライトの明かりと自身の嗅覚を頼りに、毛細血管のように広がった洞穴内を歩き続ける。

微かな風の流れ、そして洞窟内の籠もったかび臭さと外の新鮮な空気を嗅ぎ分けながら、確実に出口へと突き進む。



『……外の匂いが強くなってきたわね』



 その猟犬を凌駕する嗅覚で暗い洞穴内を歩き始めてしばらく経った頃。

洞穴は段々と傾斜が険しくなり、チェーンソーを背負ったジュリが両手で地面から所々飛び出た岩や根っこを掴んで進む姿があった。



『あの蟲は……?』



 ジュリは背後に耳を澄ますが遠くから水音が微かに聞こえる以外は何も聞こえず、臭いもしなかった。

少しだけホッとすると、次の岩に手を掛けてゆっくりとだが着実に洞穴の出口へと突き進む。



『はぁ……』


 洞穴の縁の部分に手を掛けて、ゆっくりと外に這い出す。

そして手や膝に付いた泥をはたきながら、辺りを見渡した。



「どこかの家の裏庭みたいね。 樹に完全に飲み込まれてるけど……」


 家の壁には太い幹が何本もめり込み、屋根には青々とした葉が覆い被さる。

かなり早くこの村に着いたはずだったのに、今では木々の合間から見える太陽の光はオレンジ色をしていた。


 口に咥えたペンライトを吐き出すと、ポケットからスマートフォンを取り出して兄のジョンの番号へと電話を掛ける。

しばらく待った後のコールのあと、ジュリの耳に届くのはお決まりのガイダンス。



『おかけになった電話をお呼びしましたがお繋ぎ』



 ジュリは大きなため息を吐いて、耳に当てていたスマートフォンをポケットへと戻す。

そして自分の現在地を知ろうと、再度樹に覆われた家屋を観察するために家の周りをを木々の合間を抜けながら歩き回る。

ジュリがちょうど家の正面に来たとき、見覚えのある光景を目にする。


「あ、ここ……」



 ”何か”に破られたような扉。見づらくなっていたが、壁に残った銃弾の痕。廊下の床に広がる黒い何か。

それは前回、ジュリが依頼者である浦河智也の自宅で動き回る死人たちと戦った痕であった。つまり、洞穴は浦河智也邸まで続いていたことになる。

しばらく手を顎に当てながら考えに耽っていたジュリであったが、考えがまとまったのか密林と化した道路へと足を踏み出す。



『公民館がキナ臭いわね。依頼にあった芋虫みたいな化け物が居て、しかもあの”人面蟲”の顔の持ち主であるリオさんがなくなっていた場所だし。まあ、兄さんなら大丈夫でしょ……』



 ジュリは兄の心配を(適当)にしつつ、公民館に向けて密林へと消えるのであった。

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