第103話13-5
ジュリとジョンは、別の駐車場から聞こえた何か重たい音を叩きつけた音を聞くやいなや、その音の発生源へと駆け出した。
その2人に釣られるような形で、清水も駆け出した。
「兄さん、たぶん東の駐車場からよね?」
「ああ、たぶんな。全く、死ぬなら同じ場所で死んでくれよ」
ジュリとジョンは短距離走ランナーの様に全速力で風を切るように病院の敷地を駆ける。そのやや後ろに、髪を乱しながら清水も続く。
「おいおい、なんて日だよっ!」
清水は息を切らしながら、叫ぶようにジュリとジョンの背に向かって話す。
ジョンは後ろを振り返らずに、その声に反応する。
「たまにゃあ体を動かさないと体が錆びるぞ、清水のおっさん!」
「お、俺は、お前らみたいに若くないんだよっ!」
「……うるさいわ」
ジュリはジョンと清水のやりとりの声の大きさに、ぼそりとつぶやく。
そんなジュリの様子に全く気がつかない清水とジョンは大声で話し続けながら走る。
そして3人は病院の中庭を抜け、渡り廊下を突っ切り、病院の中を駐車場に向けて走り抜けた。
息を切らしながら、音が響いた東側の駐車場に着いて眼前に広がったのは、紅く血に染まったコンクリートの地面とその中心にいる2人の人間。そして近くに植えられていた記念樹の木に飛び散った血が葉から葉へと滴っていた。
「今度は2人飛び降り?」
ジュリはどこから落ちてきたのか確認するために上を向く。病院の入り口から少し出て、2人の死体の近くから上を見やる。
そのジュリの頭に向けて”落ちてくる人型のモノ”。
「あ」
その瞬間、ジュリの視線と”人型のモノ”の視線がぶつかり合う。
まるでとても楽しそうな表情をした”モノ”はジュリを狙っていたかに正確に墜落してきた。
「危ないっ!」
ジョンは咄嗟にジュリを突き飛ばす。そして突き飛ばされたジュリとジョンの間を縫うようにして”人型のモノ”が振ってきた。
辺りには重い音が響くと同時に、鮮やかなピンクの肉片と体液が辺りにまき散らされる。ジュリは、尻餅をついた状態で、頬に掛かった血とリンパ液が混ざったものを拭うと、素早く立ち上がる。
「やっぱり、トイレから飛び降りたみたいね」
ごま粒のようにしか見えない、開け放された9階のトイレの窓を睨み付けると足下の血と肉片を蹴飛ばしながら院内へと戻る。
その後ろをジョンも続くが、清水はいそいそと現場保全を始める。
「俺は現場保全するから、そっちは任せたわ」
清水は院内に消える2人の背に向かって声を掛けると、ポケットから鑑識用の手袋を取り出して死体を調べ始める。
哀れな被害者の服を探り、髪をかき分けたときに、あることに気づく。
「なんだ……この痣は?」
死体のこめかみ辺りに奇妙な痣が出来ていたのだ。それは直径10センチ程度の大きさで、先端が丸いものでこめかみを強く押したような痕であった。
清水は手早く他の死体を調べると頭蓋は砕け、血塗れであったが奇妙な痣を確認することが出来た。
「何が起こっているんだ?」
清水はしゃがみ込みながら、被害者たちが飛び降りてきたであろう9階のトイレの窓を、目を細めて見るのであった。
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