第102話13-4
「で、どうするんだ? 素直にこの病院の医者や看護婦に『なんで毎年、この病院に居る人が変な死に方をしているんですか?』って聞いて回るか?」
「まあ、馬鹿な目で見られた挙げ句、適当にはぐらかされてお終いね。こういう時こそ何があってこんな状況になったのか調べなきゃね」
ジュリは談話室の窓辺にゆっくりと歩くと下を見下ろす。
そこには先ほどから鈴の愛車の鎮火作業に追われている消防隊員の他に、通報を受けて駆けつけたのか数台のパトカーの姿も見られた。
その警官の中に、見知った顔を見つけたジュリは談話室を出て階段を降りて外へと出る。
野次馬を近寄らせまいと、辺りを歩き回っている警官の中に居たくたびれたブラウンのトレンチコートを来た男へと近寄ると声を掛ける。
「清水さん、こんなところで何をしているの?」
「ん、おお。ジュリちゃんこそこんなところで何をしているんだ?」
そこに居たのは、警察の中でも怪異事件に特化したSIT3に所属している清水であった。
清水は白髪交じりの頭をガリガリとかきむしると、ため息を吐く。
「俺は近くを通ってたからって、こんなところに応援に駆り出されたよ。で、そっちは」
清水はジュリが淡いピンクのカーディガンを羽織り入院着を着ていることに気がつくと、あっとしたような表情になる。
そして、ジュリの後ろに着いてきてきたジョンの姿を見て、おおよそ何があったのか清水は察する。
「最近、仕事の依頼を断ってた理由はこれか。連絡をくれれば見舞いの1つでも行ったのに」
「病室のベットに弱々しく寝て、お見舞いを受けるなんて性に合わないくらい分かるでしょ」
「たまにゃあ、そんな姿を見せてくれても良いんだぞ? ……もう10年以上はお前ら2人と付き合っているわけだし」
「……考えとくわ」
照れ隠しなのかそっぽを向いたジュリに変って、今度はジョンが口を開く。
清水はジョンの普段とは違う、まるで自身と同年代に思える程のセンスのない寝間着姿に口元を歪ませる。
「ジョン、お前もうちょっと良いパジャマを選べよ。全身、真っ青だなんて流石にそれじゃあダサすぎるぞ?」
「ほっとけ。それで、清水のおっさんに聞きたいことがあるんだが、良いか?」
「ん、何だ?」
「この病院で、こういうことって良くあるのか? 大量の自殺とか変死とか」
「いや、あまり聞かないな。……ああ、でも」
清水は何かを思い出そうと、伸びた無精ひげを擦りながら考えている素振りを見せる。
そして、何かを思い出したかのように小さく声を上げる。
「そういえば俺が新米だった頃に、この病院で換気扇に突っ込まれて殺された事件があったっけな」
その言葉にジョンはぴくりと反応する。
清水はその反応を見ると、眉をひそめる。
「なんだ、この病院絡みで依頼でもあったのか? そんな大怪我してるのに」
「俺にとって嫌な依頼でも、札束で頬を引っぱたかれたら従うしかないんだよ。で、その話の続きは?」
ジョンは大仰そうに肩をすくませて、清水に問いかける。
清水は当時の記憶を思い出そうと、こめかみの辺りを手で揉む。
「聞き込みで入院患者が1人消えたとか言ってたな。結局その入院患者は見つからず、事件はもう時効になっていたはず、だったか」
「その患者ってのは?」
「あ~、なんか暴れて処置入院していた女とか? 名前とかそこら辺のは署の記録庫で探さなきゃ分からんよ」
そこまで話したところで、清水は別の警官から呼び止められる。
そして少し清水とその警官は小声で話すと、ジョンに向き直る。
「悪いな、現場保全の応援に行かなきゃならん。資料は後で送ってやるから」
清水はジョンとの会話を切ると、足早に去る。
そして、ジュリとジョンは遠巻きにその様子を眺めて、清水がすっかり水浸しとなった鈴の愛車に近づいたときに別の駐車場から何かを叩きつける音が響いたのであった。
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