第75話11-8

”サヌトリー”工場の警備員を務める、大学生の八木沼は目の前の光景が信じられないでいた。


「なんだ……何なんだ!?」


 少し前まではいつも通りの静かな職場で、何もない夜が過ぎ去るだけであった。

しかし、その静かな一日が、突然音を立てて崩壊した。爆音を立てて、工場の門を破壊しながら侵入してくるリムジン。

それに驚きながらも守衛室から飛び出して、リムジンが行く先へと駆け寄ろうする。しかし、突然の後ろからの熱に後ろを振り返ってしまった。

見えたのは、後ろを駆けてくる”燃えさかる男”。


「あああああっ!!!」


八木沼は今まで体験したことのない異形を見て恐怖をし、錯乱する。額には脂汗が浮かび、膝は激しく震える。

咄嗟に逃げようと足を動かそうとするが、恐怖で足が動かない。そして、八木沼に迫る”燃えさかる男”。


「あ”っ」


 八木沼と”燃えさかる男”がぶつかるが、”燃えさかる男”は何も当たらなかったかの如く、そのまま通り過ぎた。

その場に残されたのは八木沼1人。いや。


「あ……あ……」


 ”半分”になった八木沼。”燃えさかる男”にぶつかった右半身は、男にぶつかった瞬間に弾けて、蒸発する。皮膚は焼け、溢れた血は熱で蒸発し、こぼれ落ちた臓腑は焼かれて炭と化す。

だが皮肉なことに、残った左半身の傷口は熱により瞬間的に塞がれていたため、即死は免れていた。


 だがそれもつかぬ間のこと。八木沼は自身にぶつかった”燃えさかる男”をぼんやりと見つめながら、激痛により意識を手放したのであった。





”燃えさかる男”が追いかけてくるのを肌で感じながら、ジュリとジョン、鈴の3人は工場の敷地を駆ける。

ジュリが後ろを振り返ると、”燃えさかる男”との距離が確実に縮まっていた。


「それで兄さん、どうするつもり? 確かに水ならここにたくさんあるでしょうけど、”アレ”が止まるようには思えないわ」


「ああ、ジュースや水をぶっかけてアイツの足を止めるつもりは無いんだ。 ここには火を消すのに、もっと良いものがあるからな……。 取りあえず、工場の中に入るぞ」


 全力で走りながらもジョンは工場入り口のガラス扉に向けて、胸からマグナムを抜くと狙いを付けて発砲する。

重い音が響くと同時に、ガラスの砕け散る音と警報が辺りにこだまする。そして工場にジュリ、鈴、ジョンの順番で侵入すると、入り口から少し離れたところでジョンは足を止める。


「こいつはさっきのリムジンのお返しだ!」


 ジョンが胸から手榴弾と閃光手榴弾と発煙手榴弾を取り出すと同時にピンを抜いて、先ほど自分たちが通ったガラスの入り口へと投げつける。

3つの手榴弾が炸裂すると同時に、3人を追ってきた”燃えさかる男”に爆炎と閃光、煙幕が立ち込める。

その衝撃で、入り口近くの天井が崩れて、男目掛けて降り注ぐ。ジュリたちの方にまで、天井が落ちてきた衝撃で舞い上がった埃がやってくる。

その埃で咳き込みながらも、急いで3人は工場の奥へと駆けるのであった。

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