第74話11-7

鈴が駆るリムジンの後部座席で、忌々しそうに後ろを見るジュリとジョンの2人。その視線の先には燃えさかり、辺りを照らしながらリムジンを追う筋肉質な男。その男が体を動かす度に、小さな炎が飛び散り宙へと消える。

鈴の卓越した技術に加えて運も味方したのか、幾度も信号無視をし、一般車の合間を縫いながら”燃えさかる男”に追いつかれずに鈴はハンドルを右へ左へと切る。


「せっかく、目立たないようにしていますのに……」


「まあ、明日の朝刊の一面には載るでしょうね。あれだけ燃えてるわ、地面を溶かしながらじゃあ、ね。 ……キャンプファイヤーをするなら、是非呼びたい怪異だけど」


 ジュリは呆れたように後ろに視線をやる。そこには先ほどと同じく、短距離ランナーのように追いかける”燃えさかる男”の姿があった。

ジュリは財布から100円玉を取り出すと、燃える男に投げつける。

100円玉は男にぶつかると、飴細工の様に溶けて地面に飛び散ったのであった。


「”あの男”……100円玉が溶けたってことは全身の温度が900度以上はありそうね」


「で、”アレ”はどうする? 近寄るだけで、こっちがやられるぞ?」


 ジョンは弾丸を全て吐き出したマグナムのマガジンを車外へと投げ捨てると、新しいマガジンを込める。

同時に懐からタバコを取り出すと、手際よく咥えてジッポで火を点ける。車の所有者である鈴に無許可で。


「この車は禁煙車ですのに……」


 鈴は前を見ながら顔をしかめて、ジョンに注意をする。だが、ジョンはそんな注意はどこ吹く風で受け流す。

しかし、突然伸びてきたジュリの手によって、ジョンが咥えていたタバコは叩き落とされ宙に舞い、車外の闇へと消える。ジョンは残念そうに肩をすくめると、再度懐からタバコを取り出して、今度は火を点けずに口に咥える。


「持ち主が禁煙と言ったら、それには従わなきゃ。 ところで”アレ”をなんとかする方法なんだけど、これから海岸に向かうなら、海に突き落とすぐらいしか無いんじゃないかしら。 ……あのスピードなら、船に乗る暇すらなさそうだし」


「そうですわね……。 というよりもそれしかないと言えますが」


 そうやって相談しながらも鈴は常に前方に集中しながら、燃える男に追いつかれまいとハンドルを握る。

流石に何時間も1つのミスも許されない状況を強いられたためか、鈴も目に見えて消耗していた。



「あともう少しですわ……」


 遠くに薄ぼんやりと水平線が見える。船がある目的の海岸まで、あと少し。

だが、ここで想定外のことが起こる。


「なんてこと……」


 鈴が見つめるその先には、『この先事故車あり。道路一時封鎖中』という立て看板。

今走っているこの広い国道が使えなければ、海岸へ行くための道は細く曲がりくねった住宅街の道路のみ。そんな細い道を通れば、”燃えさかる男”に追いつかれるのは目に見えていた。


「あそこの工場に入れ!」


 ジョンはその状況を理解したのか、鈴に指示を出す。鈴はジョンの意図が分からないままであったが、指示された通りにアクセルをフルスロットルで踏み込むと、ジョンが指さす”サヌトリー工場”の門を突き破って敷地に侵入したのだった。

そして、敷地に侵入した3人は車から飛び降り、乗っていたリムジンが速度を落とさないまま工場の壁にぶつかって爆散する。


 車から飛び降りた3人が立ち上がって駆け出すと同時に、”燃えさかる男”も工場の敷地へと速度を落とさぬまま侵入したのであった。 

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