第44話8-2
ジュリはその日、いつもの通り自身が通う、帝都大学で講義を受けるために、校門をくぐった。いつも通りの大学、講義、会話。
そこには、いつも通りの平穏の時間が流れていた。いや、流れるはずであった。
「ん?」
ただ1つの異物を除いて。
「この臭いは……血?」
血の臭いが至るところからするのだ。
大学の植え込みから、校舎からその臭いは広がっていた。常人ならば、気にも止めないような微かな物であったが、ジュリはそれを嗅ぎ分ける。
ジュリは携帯電話を取り出すと、連絡帳を開き、その細い指で画面をなぞる。その指が、ある名前のところで止まる。
「清水さん?」
「もしもし……おう、ジュリか。お前から電話なんて、嫌な予感しかしないな」
ジュリは警察の中でも怪異を専門に扱う課に所属している、清水へと電話を掛けたのだった。
「聞きたいことがあるんだけど。良いかしら?」
「NOって言っても、いつも聞かんだろうが……で、何が聞きたい?」
「帝都大学周辺で、不審な事件とか起きていないかしら」
「ちょっと待ってろ」
電話口から、キーボードを叩く音が聞こえ、清水はデータベースから帝都大学周辺の事件を洗う。
数分経ち、キーボードを叩く音が止んだ。どうやら、調べ物が終わったらしい。
「おう、何件か怪しいのがヒットしたぞ」
「どんな事件なの?」
「その大学の生徒が何人か、ゴミ捨て場で見つかったらしい。全員、大量失血して失神していたみたいだ」
「たぶん、当たりね。その人たちは今、どこに居るの?」
「さあな? 全員、病院から抜け出して行方知らずだと」
「そう。分かったわ……また何か分かったら、すぐに連絡して」
ジュリは携帯を切ると、ふと何かに気がつき辺りを見渡す。何故か、血の臭いが強くなったからだった。
ちょうどその時間は、講義と講義の境目の時間。大量の生徒がジュリの横を抜けて、校門から出ていく。
その生徒たちに混じって、植野教授もジュリの横を通ったが、ジュリは余りに人が同時に横を通ったため、その存在に気がつかなかった。少しの間、辺りを見渡していたジュリであったが、踵を返すと人混みに消えていった。
この日の夜、清水の元に奇妙な通報が届く。通報場所は帝都大学のすぐ近く。
それは『花人間に襲われた』という奇妙な物であった。
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