飲むミドリムシ。
深夜 酔人
終焉
午後6時53分。私の手には1つの紙パックジュースが握られていた。心なしかその手は震え、ジュースの存在が異質なものだと強く伝えている。
「飲むミドリムシ」
それが、ジュースの名前である。最近健康食品として話題になっているミドリムシを気軽に摂取でき、コンビニ販売でコスパもいいという優れもの。ここまでの聞こえはいいのだが……
「クソまずい」
「マジやばい…」
という友人の意見が多数出ており、どことなく不安と恐怖を駆り立てられる。そもそもこれ自体友人がちょっと飲んで無言で渡されたものだ。何があったんだ……。
パッケージにはミックスジュースによくあるフルーツの絵柄が沢山書かれている。キウイ、リンゴなど様々だ。しかし、グラスに注がれたジュースの絵の色は濁った緑。いや、鶯色と言えば伝わるだろうか。「ミドリムシィ!」っていう主張が強い。
飲み口を開け(ストローは捨てた)、匂いを確認する。ふわっと香る……これはなんだろうか。抹茶と言うには冒涜的であり、かと言って他に形容しようがない不思議な匂い。たまらなく不快感をかき立てられる。死にたい。そう思わせる匂いが、そこに詰まっていた。
恐る恐る口をつける。透明感ZEROの鶯色が唇に迫って――
それは、大いなる神との会合。
脳みそが掻き乱され侵食される。
沸き立つ死のイメージ。喉の内側から何かが這い上がってくる。
臓物の全てをサナトリウムにぶち込まれたような、ああ、そこに広がるは……
虚無。そう、虚無であった。私は虚無となった。私は――
激しい咳き込みが私のものだと気づくのに、何秒かかっただろうか。意識が別世界に行っていた。これは人間の飲むものでは無い。悪夢の世界のなにかだ、そうに違いない! そう思うのに躊躇いはなかった……。
余談だが、その後草刈りをしたという私の家では、強い草の匂いが立ち込めていた。それはそれは、飲むミドリムシの匂いに似ていた。
飲むミドリムシ。 深夜 酔人 @yowaiyei
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