カップ麺と情熱的な一夜を
七戸寧子 / 栗饅頭
本編
人間の三大欲求が満たされてない。
睡眠欲、食欲、性欲。
満ち足りていない。
俺がそれを自覚したのは深夜だった。そんなことは気にせずに睡眠欲だけ満たしてしまえばいいものを、どうも腹が減ってしょうがない。しかし今から料理というのも面倒だった。インスタント食品を買い貯めておかなかったことを後悔しつつ、安物のスリッポンに足を突っ込む。
仕方がない。
料理と同じくらい面倒だが、コンビニに行こう。
幸い、俺の家から五分も歩けばコンビニに辿り着くことができる。適当なメシを買ってこよう。あくびをしながらドアを開いて、かかとを踏んだスリッポンを直した。
深夜でもコンビニは煌々としていた。街灯の少ない田舎だと、夜道の貴重な光源だ。客は俺一人で、レジに店員が一人いるのみだった。
店内を徘徊し、胃袋が欲するものを探す。
菓子パン。弁当。おにぎり。
どれもピンと来ない。深夜に部屋着でグルグルしているので、店員がこちらを睨んでいた。傍から見れば不審者だろうが、俺はただ腹が減っただけだ。睨み返してやろうと、店員の方に目を向けた。その時、とあるものに目が留る。レジ前に置かれた大きな段ボールだ。
近づいて中を見てみると、有名メーカーのカップ麺がぎっしり詰まっていた。値段を見ると、通常の半額以下になっている。おそらく、店員が誤発注でもしてアホみたいな量のカップ麺を入荷してしまったのだろう。その処理のため、こうやって並んでいるのかもしれない。カップ麺は日持ちするから別に定価でいいだろうと思ったが、客としては安いに越したことはない。
自分はそれを手に取り、レジにコトンと置いた。
家に帰ってきて、コンビニの袋から例のカップ麺を取り出す。湯を沸かしながら、そのパッケージをまじまじと眺めた。
全体的に白い。色白だ。
成分表などを意味もなく読んだあと、くるっと回して商品名が書いてある側を自分に向ける。書いてある諸々は赤色だった。
なんだ?じっくり見られて、照れちまったのか?
色白の美人を赤面させるというのも悪くないななどと、くだらないことを考えているうちにヤカンがピーピー騒ぎ出した。火を止めて、カップ麺側の準備を始める。
まだ顔は赤いままだった。
ゆっくり、その白い体を包んでいるものを剥がす。外部の汚れなどから身を守る、言わば服のようなものだ。透明なビニールの服でおいしそうな身体を見せつけるなんて、誘ってるとしか思えない。
そうはいっても、俺は男だ。相手がどうあれ、丁寧にしてやるというのが紳士というもの。乱暴にしてしまいたい気持ちをぐっと抑える。
はらりと、ソイツの身を包んでいた物の最後のひとパーツが剥がれ落ちた。だが、これではなにも出来ない。ソイツの一番大事な部分、デリケートでおいしい所を隠しているものを取り去ってやらねばならない。
そこを取るのもいきなりではいけない。相手と気持ちの確認をしてからだ。その部分を優しく撫でながら、相手の要求を聞いてやる。どんな風にしてほしいとか、どう食べてほしいとか。
ソイツは訊かずとも答えてくれた。少々注文が多かったが、俺が楽しむためにも必要なことなので全部叶えてやることにした。
兎にも角にも、まずはその部分を空気に晒させてからだ。要は、俺の目に入れるということ。相手に恥ずかしがる様子はなく、むしろ奥までしっかり見てねという具合だ。お言葉に甘えて、大事な穴を隠しているペラペラのものを半分だけめくる。
壮観だ。
こんなに素晴らしい光景はなかなかない。三大欲求の一つである……言わなくてもわかるだろう。底なしの欲求に猛烈なアプローチをかけてきた。
我慢ならない。半分だけ見える大事な穴に、遠慮なくアツアツの液体を一発流し込んだ。
相手の体が熱くなっているのがわかる。これからとんでもないお楽しみが待っていると考えたら、興奮と涎が止まらなくなる。
だが、ここからが辛いところだ。俺が流した液体で相手がふやけてグチャグチャになってしまう所を観察したいが、またその穴を隠さねばならなかった。
なぜなら、それが向こうの要求だからだ。
三分。
三分我慢できたら、好きなだけ貪っていいと言われた。仕方がないので、その間にとあるものを用意した。
長い棒。
これを使えば、あの色白の穢れなき体がどうなってしまうか。実に楽しみだ。これを使って美味しくいただいてやる。貪ってやる。ただでさえ、欲にまみれた狼である俺を刺激した罰だ。この欲が治まるまで食らってやる。
そんなことを考えるうちに、三分が経った。ふと見ると、勝手にピラッと穴を見せている。相変わらず半分だが、俺のことを誘っているのは明確だった。
飛びつき、残りの半分を乱暴に剥がす。それと同時に、鼻をなでる独特なニオイ。人によってはこのニオイが服についたりするのを嫌うらしいが、俺は大歓迎だった。肺をその香りで満たし、自分の興奮を最高潮に高めたところで例のブツを取り出す。
長い、愛用のスティック。
それを、濡れた穴に挿入してナカをぐちゃぐちゃに掻き混ぜる。よりニオイが立ち、さらに自分の欲を引き立てる。
究極を言えば、ソイツの本質、一番大事とも言える部分を思い切り口に含んだ。熱くて、汁が絡んでて、飢えた自分には最高に美味に感じた。下品な音を立ててそれを啜り、さらに味わう。
自分の勢いに気圧されたのか、色白のソイツは何も言えないようだった。だが、抵抗もしない。「こうして欲しかったんだろう?」と心の中で問いかけながら、一心不乱にその味をシタで感じ続ける。
棒を突っ込んでは引き抜き、直に口をつけて溢れ出す汁を啜ったり、知的生命体とは思えぬようなワイルドさでソイツを自分のモノにしていく。
最初の、ビニールに包まれたソイツはもういない。代わりに、男の手に包まれて美味しく頂かれる姿がここにはある。そして、その男とは自分自身だ。
ズルズル、じゅるじゅるという音が薄暗い部屋で連続している。下品だ。だがそれがいい。それでいい。それでこそ、真の「堪能」だろう。
相手の身体が熱く火照っているということには気がついていたが、いつの間にか自分の身体も温まっていた。昔から、身体を温めるときにすることというのは決まっている。二つだ。
一つ目は、熱くて美味い飯を喰らうこと。
二つ目は、裸で身を寄せ合うこと。
今の俺は前者か後者か。説明するまでもない。
その後もひたすら、俺は貪った……。
三分待たされるが、ペロリといただいてご馳走様するのはあっという間だ。俺は行くところまで行き、色白美人は脱力しきっている。魂が抜けているような、空っぽの状態だ。
俺はティッシュで口周りやらの汁を拭いて、それを丸めてゴミ箱に投げる。
アイツの身体は洗ってやった。ニオイが残ってしまってはたまらないからだ。
さて。
人間三大欲求のうちひとつが満たされた。この際、全て満たしてしまおうと思い立ってベッドに身を投げた。
「さ、シコって寝るか」
カップ麺、ご馳走様でした。
カップ麺と情熱的な一夜を 七戸寧子 / 栗饅頭 @kurimanzyuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます