第百十四話 秘策
秘策?
『そうなの』
間違いないと言わんばかりの断言。
ナノは自信満々そうだけれど、本当にこの状況を打開する秘策が存在するのか?
『大きな声では言えないなの。ちょっと耳を貸してほしいなの。ごにょごにょ』
ごにょごにょと小声でその秘策とやらを話すナノ。
いや、別に俺とナノ以外にこの会話が聞こえている訳ではないだろうから、あえて小声で話をする必要なんてないと俺は思うのだけれども。あと耳貸せってなんだよ。
……。
ナノの秘策。それを聞いた俺はナノに全てを賭ける決意をした。
ナノがそう言っているんだ、俺の命を、身体を張って救ってくれた相棒がそう言っているんだ。
「さぁて、密談は終わったかな?」
シルフが待ちくたびれたとばかりにそう尋ねてくる。
そんなシルフを俺は一瞥して、展開していた光学障壁を解除した。
「……」
それを見て、怪訝そうな表情でシルフがこちらを見てくる。
まるで「どういうつもりだ?」と言わんばかりの無言の圧力。それを感じながら、俺はわざとにやけた面を浮かべて口を開いた。
「俺にはもうお前の攻撃は効かない」
「は?」
シルフは何を言っているのか分からないといった様子でこちらを伺って来る。
「何を言うのかと思えば。頭でもおかしくなったのかな」
「別に頭がおかしくなったわけでも、妄言でもないぞ。そのまま、言葉のとおりだ」
煽るように。
俺に攻撃を仕向けるように。
「お前が作った愚鈍な玩具の攻撃なんて、もう俺には効かないって言っているんだよ」
瞬間、まるで真っ二つにされかたのような衝撃が俺を襲う。
頭から腹あたりまで切り裂いた一直線の斬撃。
再び鮮血が宙を彩る。
「ごめんね、安っぽい玩具の攻撃で。どういう意図かは知らないけれど、そうのたまったからには覚悟はできているんだよね。『ソニックブレード』!」
連撃で俺に叩きこまれる音の斬撃は、幾度も俺の身体を切り裂いた。
その度に傷は癒え、刹那の後に新たな傷が刻まれる、それが幾重にも繰り返し続いていく。
ズタボロの俺の服だけが狂音の機械竜が何度それを繰り返したのかを物語る。
だがよほど俺が煽ったのが気に障ったのか、シルフが攻撃の手を止めることは無かった。
◇
「おかしい……」
シルフは狂音の機械竜に攻撃を命じながら小首を傾げた。
音の刃で切り裂かれ続ける少年が、決して死なないことは理解している。
それは分かっているが、何かが変わり続けている予感がする。
目に見えた変化はないものの、わずかに少年の周りに何か見えない力が溜まっていっているような、そんな気がしたのだ。
「宿り木の精霊の力?」
自身と同じ精霊の力を彼は使役している状態だ。
もしかしたらその何かの力が精霊である自身にも感じ取れているのかもしれない。
先ほどの発言はこちら側の攻撃を誘発させるための煽りだなんて百も承知。
別にあの程度の発言で腹を立てるほど短い人生を生きている訳ではない。
恐らくは何かしらの策があるのだろうと、あえて煽動されたフリをしてその出方を伺っていたのだが……。
「ま、でも、これでようやく分かるということかな」
決着の時は近い。
シルフは何かに期待を膨らませながら静かにほほ笑んだ。
◇
どのくらいの痛みが脳内を駆け巡っただろう。
動くことさえままならない。わずかな意識を縛り付けておくことだけが精一杯の状況で、俺はその時を待ち、必死に耐えた。
『ラグ、いけるなの! ナノパワーマックスなの!』
ナノが言っていた秘策の力、ナノパワーって言うのか。安直すぎて逆に好きになりそうだ。
俺は今まで無防備に受け続けていた音の刃に向け、光学障壁を展開する。
『ナノパワーは今名付けたの。ナノが蓄えたパワーだからナノパワーなの』
分かった、分かった。
久々に訪れた痛みのない時間に、俺はふぅと息をつく。
「おや?」
俺が光学障壁を展開したのを見て、シルフが攻撃の手を止めるよう指示した。
「あれあれ? この子の攻撃はもう効かないんじゃなかったのかな?」
「そんな訳ないだろ。無茶苦茶痛かったぞ」
恐らくあの言いぶりからすると、シルフは俺が煽っていたことに気付いていた。
その上であえて俺の策にのってきたというところだろうか。本当にムカつく奴だ。
「まぁ、でも、おかげで準備が整ったよ」
「なるほど、それは良かった。折角ここまでお膳立てしたんだから、ボクの期待を裏切るようなことはどうかしないでおくれよ」
シルフは何かを期待するようなまなざしで、俺を見やる。
このシルフの手の平で転がされているような感じ、どうも気に入らないんだよな。
「さあな。ま、そいつを壊されて、吠え面かくのだけは勘弁してくれよ」
俺はそう言ってナノを狂音の機械竜に向けて構えた。
「それは楽しみだね」
シルフはそんな俺を見て、狂音の機械竜へ指示を出す。
「『ソニックブレード』」
シルフの指示で、狂音の機械竜は今日何度目かの音の刃を俺に向けて放った。
その威力は今までよりも格段強く、一撃で光学障壁をぶち破ってくる。
「本当にムカつくな」
さながら今までの攻撃は手加減をしていましたと言わんばかりのその威力に、俺は腹立たしさを覚えた。
その音の刃は光学障壁を破ってなお、威力が衰えないのだから。
「さぁ、見せてごらん。君たちの秘策とやらを!」
◇
ナノの秘策。
『ナノは願いの力でラグの経験値を吸収して溜めることができるというのはもう説明したなの。これをナノが今使える最後の願いの力、五番目の願いの力で攻撃に変換するなの。そうすればきっとあいつを倒せるなの。でもまだこれを使うには経験値の力が足りないなの。だから……』
俺がその力が使えるようになるまで経験値をナノに供給して欲しいってことか?
『そうなの。でもそんなに簡単な話じゃないなの。経験値を得るのはすごくすごく大変な思いをしないといけないなの』
いや、そんなことはない。
『??』
俺はナノのその願いの力の効果で常にレベルが1に戻り続けることになる。つまりは死にそうな攻撃を受ければ簡単にレベルが上がる状態にあるってことだ。
『で、でもそれはラグがとっても痛い思いをするってことなの。それはナノとしては提案できないなの』
なぁ、ナノ。本当にその力があればあいつを倒すことができるのか?
『多分……。ううん、絶対倒せるなの!』
そうか。じゃあ俺はナノ、お前を信じるよ。
『ラグ……』
だから、その時がきたら全力で頼んだぞ、相棒!
『分かったなの!』
◇
「さぁ行くぞ、ナノ! 今がその時だ。俺たちの力、こいつらに見せつけてやるぞ!」
『行くなの! これが五番目の願いの力、イカの願いなの!』
俺の周囲に溢れ出すナノパワー。
それはまるで『天下無双』のオーラのように虹色に輝き、ナノの剣を包み込んだ。
俺はそれを確認し、斜めに大きく振りかぶり、眼前に『ソニックブレード』が迫った刹那、それを振り下ろした。
「『
袈裟斬りで放たれた虹色の波動は、『ソニック・ブレード』を簡単にかき消し、狂音の機械竜を飲み込んだ。
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