第九十二話 迂闊な消失
スキルクリスタルが壊された瞬間、力が抜けたような感覚に襲われた。
嫌な予感がした俺は、すかさずステータスを確認する。
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ラグナス・ツヴァイト
Lv:1
筋力:G
体力:G
知力:GG
魔力:G
速力:GG
運勢:GG
SP:8
スキル:【レベルリセット】【超回復】
【エリクサー】【アーティファクト】
【天下無双】
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「ランダムスキルが……ない……」
ステータスからは、スカーレットから預かっていたインザインのスキルクリスタルから習得したランダムスキルが消え去っていた。
いや、まだ可能性はある。
一つ思い出したのは、ステータスに表示されていなくても習得はされているケース。
超回復や未だ表示されていない早熟のスキルと言ったように、表示されていなくても習得さえしていれば効果を発揮することができる。
「ランダムスキル!」
俺は万に一つの可能性を信じてスキルを発動させた。
……。
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ラグナス・ツヴァイト
Lv:1
筋力:G
体力:G
知力:GG
魔力:G
速力:GG
運勢:GG
SP:8
スキル:【レベルリセット】【超回復】
【エリクサー】【アーティファクト】
【天下無双】
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ステータスを確認するが、スキルが習得されている気配はない。
俺がランダムスキルで習得していた『暁の天啓』のスキルも消えていたので、望み薄だったけれど、やはりランダムスキル自体が消滅したと考えるのが正しいだろう。
迂闊だった。
そもそもあのクリスタルはスカーレットからの預かりものだ。
これじゃあスカーレットに合わせる顔が無い。
「その様子を見るに、何かしらの力を失ったと見える」
バークフェンはしたり顔で片膝をつく俺を見下ろす。
俺は悔しさから奥歯を力強く噛みしめた。
最悪スキルが無くなるのはいい。スキルクリスタルさえあればもう一度習得ができるからだ。
だけど、スキルクリスタル自体が粉々に砕かれた今、エリクサーの時のようにくっつけてスキルを習得するなんて荒業通用しない。
ランダムスキルは俺が習得している癖のあるスキルの中で、デメリットのないまともなものだった故に、自分の迂闊さには怒りすら覚える。
何故簡単に飛び出るほどアイテムボックスに雑多に入れてしまっていたのか。
「くそっ」
俺は立ち上がりナノの剣を構え、バークフェンを見据えた。
いくらナノの力を借りているとはいえ、今の状況は俺に分が悪すぎる。
ステータスにも不思議な現象が起こっているしな。
俺は地面を蹴ってバークフェンへ向かって突進する。
そして眼前でナノを振り下ろすが、いともたやすく避けられ、隙を見せたところを腹に一撃、重い蹴りをもらう。
「かはっ」
昏倒しそうな痛みと共に、俺は数メートル飛ばされる。
血を吐き、視界がグラつくが、超回復の効果が発動し、身体の痛みが引いていく。
そして俺はすかさずステータスを確認した。
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ラグナス・ツヴァイト
Lv:1
筋力:G
体力:G
知力:GG
魔力:G
速力:GG
運勢:GG
SP:9
スキル:【レベルリセット】【超回復】
【エリクサー】【アーティファクト】
【天下無双】
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俺の予感は的中していた。
レベルが上昇していない。
レベルが上がらなかった訳じゃない。その証拠に超回復は発動しているし、スキルポイントは上昇している。
さっきステータスを確認した時に気付いていたが、何故かレベルが1に戻っていた。
レベルリセットは発動していないのにも関わらず、だ。
スキルクリスタルを壊されてスキルが消失する理由は分かるが、レベルが1になっている理由は説明がつかない。
ステータスに不思議な現象が起こっているとしか言いようがなかった。
『それはミカの願い、
経験値吸収?
『そうなの。レベルが上昇した時に、上昇したレベルとステータスを霊力に変えてナノが取り込むなの。あ、ちなみにナノが剣になるまでに上昇していた分も取り込ませてもらったなの』
取り込むって、じゃあその分ナノが強くなるってことか?
『それも後々できるけど、今はラグからお預かりしているだけなの。効果を発揮しないようにすることもできるけど、どうするなの?』
……、いや、そのままでいい。そのまま効果を発揮し続けてくれ。
『了解なの』
ナノは俺の指示を受けて短くそう答えた。
超回復のデメリットはレベルが上がるごとに発動の頻度が落ちるということ。
ナノの経験値吸収を発動させている限りそのデメリットはあって無いようなもの、つまり、俺は無限に超回復が発動できる無敵状態にあると言える。
わずかな勝ち筋が見えたところで、一縷の光が俺の心に灯る。
その瞬間だった。
何やらゴゴゴゴゴゴゴという扉が開くような音が地面から発せられる。
何だと思い周囲を伺うも、ここからでは全く何が起こっているのかが分からなかった。
先ほどバークフェンに蹴られた一瞬、黄金の花畑の向こうに巨人が見えた気がしたけれどそれと何か関係があるのだろうか。
「ギルバードがよくやってくれたみたいで。やはり言い伝えは本当だったということ」
バークフェンは何か得心がいったという声色で、そう告げる。
「言い伝えって……、どういう意味だ!」
「なぁに、他愛ないことだよ。それより君の相手をする必要はもう無くなった。私はここら辺で失礼するとしよう」
そう言うとバークフェンはダガーをアイテムボックスへしまい、俺に背を向けた。
「待て、俺はまだ……」
その言いかけた時、バークフェンがこちらを一瞥した。
瞬間、身体が金縛りにあったように動かなくなる。
「君など、いつでも土の栄養に変えることができる。私がこうやって手加減をしている内に剣を退け」
身体中を駆け巡る恐怖と言う感覚。
まるで到底敵わないような化け物を目の前にしているようだった。
「全く、演技は疲れるよ」
動けない俺を尻目に、バークフェンはそれだけ告げると踵を返し、どこかへ消えて行った。
数秒の後、何とか動けるようになった俺は、息を吐く。
「はぁ、はぁ」
身体から溢れだす冷や汗、バクバクと激しく脈打つ鼓動を感じながら改めて思う。
こんなに絶対的な差を見せられたのは初めてだと。
『ラグ……』
ナノが心配そうな声で俺に語りかける。
「大丈夫だ。大丈夫な……はずだ」
そう強がるものの、動けるようになった身体は、活動を再開するのを拒絶しているかのように重かった。
◇
少し休憩した後、あの音の正体が気になり黄金の花畑の方へ歩いていく。
「ラグナス君!」
すると、聞き覚えのある声が背後からした。
見ればそこにはオリバーとライカの姿があった。
「大丈夫かい?」
慌てた様子のオリバーがそう俺に尋ねてくる。
「あぁ、なんとかな」
「そうか。いや、エアリルシア王女の援護をしようと上へ向かっていたけれど、何やら下の方でやんごとない音を聞いてね。慌ててこちらの方へ来たんだ」
「オリバーも聞いていたのか。俺もその音が何なのか気になって……」
「ラグ」
俺がそう言って振り向くと、目の前の花畑に何やら見知らぬ女の子が降り立った。
「ん、ルーシィ!? どうした、その髪?」
髪の色が違っていたから、一瞬気付くのが遅れたけれど、目の前の女の子は間違いなくルーシィだった。
「その話は長くなるから後。それよりも何か変わったことが起こってない?」
ルーシィは抑揚のない声で俺に尋ねてくる。
「変わったことって言えば、俺もオリバーも変な音を聞いて――」
「変な、音?」
ルーシィが怪訝な表情を浮かべる。
「あぁ、何かしら扉が開くような、そんな音だった」
オリバーに目線で「そうだよな?」と尋ねると、無言でオリバーは頷いた。
「扉が開くような音……。黄金の花畑から外を見れば分かるってどういうこと?」
そう言いながら、ルーシィは黄金の花畑から外を見やる。
それに合わせるように俺やオリバーも黄金の花畑に立ち、外を見た。
「――どういうことだ」
目の前には信じられない状況。
絶句している俺たちの中で一番先に口を開いたのはオリバーだった。
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